安全人生
「あ、そこ、右だった!」
「だった?」
いまさら言われても、もう間に合わない。
「オレンジのラインに入っちゃってるし、進路変更できない」
助手席で地図を見て案内しているキョータは免許を持っていない。後部座席ではしゃいでいるマホトも同じ。
三人いてひとりしか運転できないなんて、そもそもギリギリの計画だったのだ。
「でも、ここで曲がらないとかなり遠回りだよ」
だったら、もっと早く言ってくれ。
「ルールばっかり守ってたら、人生いつまでも変わんねえぞ!」
後ろからマホトが煽ってくる。大きな仕事の後だから気持ちが高ぶっているのだろう。
「ほらほら、早く曲がれよ、まだ間に合うぞ!」
ルールを守っているだけでは人生は変わらない。この仕事に誘ってきたときも、マホトは同じことを言っていた。その言葉に後押しされたのは間違いない。
「えいっ」
今日何度目かの勇気を出して、ルールを破った。ウインカーも出さずに、無理矢理割り込んで右折する。周囲の車は迷惑そうにしていたが、そんなの関係ない。今日の俺たちは特別なのだ。
「あ、やば」
交差点を右折したところで、助手席のキョータが絶望的な声を出した。俺にも見えている。物陰にパトカーが隠れていた。
「はい、そこの白い乗用車、止まってください」
「うっわ、やっば」
振り切ることも考えたが、この状況でうまくいくとは思えなかった。
「すみません」
警官の指示に従い、おとなしく停車する。車内が緊張感に包まれて、キョー田は泣きそうで、マホトはもう叫び出しそうだった。
俺だけは冷静に振る舞わなければいけない。かつてない使命感が抱えたまま、免許証を提示して、切符を切られた。
「はい、気をつけます。すみません、どうも」
もうとっくに包囲網を抜けていたおかげで、それ以上のことは起きずに済んだ。
危なかった。荷物を検められていたら、間違いなくその場で捕まっていた。
なぜならトランクのなかには、数時間前に郵便局を襲って手に入れた、札束が詰まっている。
パトカーが見えなくなって冷静さを取り戻してマホトが、今後の指針を発表した。
「……いざというときの、でかいルール以外は守ろうか」
「ああ」
人生において大事なことを学んだ俺たちは、アジトまで安全運転で帰った。
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