願いを背負う
今年のフリーマーケットは中止かもしれない。
「うーん」
村のみんなから集めた売り物を並べながら村長が唸っている。
「どう思う?」
「いや、どうもこうも、だるまじゃないですか」
「だるま、だよねえ」
会場になる集会場には、だるまがひしめき合っている。何が起きたのかはわからないが、村の人たちに「フリーマーケットを開催するので、不要かつ使えそうなものを持ってきてください」とお願いしたらこうなった。しかも、全部に目が入った使用済みだ。
確かにちょうど不要なものだろうけど、こういうものは専門の神社でお炊き上げとかしてほしい。村民の数よりも多く集まったということは、一人でふたつもみっつも持ってきたやつがいるということだ。
「いやあ、どうしようか、これ」
勝手に捨ててしまうわけにもいかないし、みんなフリーマーケットの開催を楽しみに待っている。
「中止には、できない」
村長の決断を覚悟と共に受け入れた。失敗どころか怒号、罵声、暴動まで想定して当日を迎えたのだけれど、フリーマーケットは、予想外に盛り上がった。
だるまを売った金でだるまを買う。それに何の意味があるのかはわからないけれど、村民達はこぞって中古のだるまを求めた。
「だったら交換会でいいんじゃない?」
そう思い、半年後にだるま交換会を催してみたが、参加者はゼロだった。どうなっているんだこの村は。
結局年に一回のフリーマーケットは実質だるま祭りとして定着してしまった。毎年繰り返しているうちに、徐々に有名になり、県外からもだるまを持ち込む参加者まで出てきた。
村おこしなんてするつもりはなかったのに。
祭りが盛り上がるのと共に、自然発生的に既存のだるまとは別の風習が生まれつつあった。
通常であれば願い事をするときに片目を入れて、願いが叶ったらもう片方の目も入れる。
中古で使う場合「目が足りない」ということで、いつの間にか背中に目を増やしていくことになっていた。
フリーマーケットで売られていく度に、背中に目がどんどん増えていく。目が多ければ多いほど、願いを叶えた実績のあるだるまとして珍重されるのだ。
数多くの願いを叶えただるまは、てんとう虫みたいになって気持ち悪い。
その気持ち悪いだるまは、村長が高い金を払って買っていた。
「それで、何を願ったんですか?」
「うん。来年のフリーマーケットもうまく行きますようにって」
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