永遠の愛を誓いまパカ?




「あなたは、健やかナルときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるトキモ、アルパカなときも、貧しいときも、これを愛し、コレを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓いマスカ?」

 絶妙に片言な日本語で、神父が誓いの言葉を読み上げる。いや、神父と行っても形ばかりだ。今そこで神父の格好をしているジョンは僕が小学校のときに通っていた英会話学校の先生だし、キリスト教徒ですらなかったはずだ。

 新郎の友人として列席している僕の姿を見たときも、イタズラっぽくウインクして、内緒にするように無言で求めた。

 ジョンはとんでもない男で、カエルに爆竹を詰めて破裂させるなんて野蛮な遊びを広めたり、嫌いなやつが怪我をする呪いを教えてくれたり、アウトサイダーっぷりを発揮していた。

 ジョンとの思い出に浸っていたら式場がざわついている。

「アルパカ?」

「どういうこと?」

「サプライズ?」

 顔をあげると、さっきまで新婦が立っていた場所に、アルパカが収まっていた。ベールを被ったアルパカはコミカルで可愛かったけれど、周囲の反応から、何か尋常ではない事態が起きていると伝わってくる。

「ハッハッハー」

 ジョンが高笑いをする。その偽外国人のマネをやめてくれ。

「コッケイだ!」

 アルパカになった新婦を指して、ジョンが腹を抱えて笑い転げている。列席者も式場スタッフも、どう対応していいかわからず固まってしまっていた。

「倫太郎!」

 急に自分の名前を呼ばれて、その他大勢から当事者に引きずり出された。

「ワタシが何者か、こいつらに教えてやりなさいヨ」

 幼いころ、誰にも教えてはいけない秘密だと、ジョンの正体について聞かされたことがあった。子供ながらにあまりに馬鹿馬鹿しい冗談だと思って流していたのだけど、いまや疑う余地はない。

「ジョンは、悪魔……」

 説明しようとする僕の言葉を遮った者がいた。それまでアルパカになった新婦に寄り添って狼狽えていた新郎だ。

「健やかなるときも、病めるときも、アルパカになったとしても、愛することを、誓います!」

 新郎がアルパカの背に手を置いてキッと一睨みすると、ジョンは感電したかのように飛びはね、弾かれたかのように後ずさった。

「愛カ! 愛! チクショウメ!」

 ジョンは悪態をつきながら、式場から去って行った。

 愛が勝ったのだ。

 割れんばかりの拍手に包まれて、祝福の空気が式場に包まれた。

 新婦がアルパカのままなのは気になったけれど、新郎が愛し続けると言うのだから、これでいいのだろう。

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