シカでした




「……なあ」

「なんですか?」

「テントの外、さっきから何かいるよな。ずっとゴソゴソいってるし」

「あ、やっぱりあれ気のせいじゃないんですね」

「なんだよ、気になってたんなら言えよ」

「いや、もう寝てたら起こしてまで言うことじゃないかなって」

「見てこいよ」

「えっ、いやですよ」

「いいから、このままだと寝られないだろ」

「僕は別に寝られますけど、あ、いや、ええ、わかりましたよ、行ってきます」

「………………」

「………………」

「どうだった?」

「シカでした」

「……シカ?」

「何か近くの茂みで、木の皮を食べてました」

「……そうか」

「………………」

「なあ、また何かいるよな?」

「聞こえますね。でも、さっきのシカが戻ってきたんじゃないですか」

「見てきてよ」

「ええっ、またですか?」

「頼むよ」

「………………」

「……どうだった?」

「イヌでした」

「……イヌか」

「でも、野犬ってちょっと怖いですね」

「…………おい、また何かいるぞ、テントのすぐそこ」

「……わかりました。見てきます」

「どうだった?」

「……カニでした」

「沢が近いからな」

「………………」

「あ、また」

「はいはい、行ってきます」

「………………」

「クマでした」

「そうか」

「はい」

「クマかあ……」

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