15 久しぶりの学校、登校中、親友と蒼柳 賢としゃべる。

 いつも通りの日常にちじょうだ。


 電車に揺られる。

 

 揺られる。

 

 ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン、と揺られる。

 

 約二週間、学校に姿をみせず、音信不通おんしんふつうだった僕を、周りはどう思っているだろうか。

 

 「お。」

 

 目があった。

 

 電車の中、ドア越しのいつもの定位置ていいちで、揺られていると、目があった。

 

 蒼柳そうりゅう けんだ。

 

 「おまえ、」

 

 「やあ、久しぶりい、ひひひ。」


 うまく、笑えているだろうか。

 

 顔は引きってないだろうか、なんだか、久しぶりで緊張する。

 

 「久しぶりじゃあ、ねえぜ、まったくよお。心配させやがってえ。」

 

 他愛たあいのない、世間話せけんばなしをしていた。

 

 どこか、なつかしくて、二度と戻ってはこないと覚悟かくごさえ、していた日常があった。

 

 「ところで、創よ、いったい二週間の間、何してたんだあ。連絡をしてもつながらねえしよお。」

 

 僕は困った。

 

 蒼柳という比較的ひかくてき、心の許せる友人にさえ、僕は嘘をつかなくてはならないのだ。


  真実をいってはならないのだ、無言を突き通さなくてはならないのである。

 

 蒼柳は、僕の様子から、何かをさっしていった。

 「悪かった。厭だったら、無理に言わなくてもいいよ。無事でよかった。元気そうで何よりだ。」 

 

 「ありがとう。君が友達でよかったよ。」

 

 「なんだよ、気持ちわりいなあ。やめてくれ。」

 

 蒼柳は、心底、変なものでもみる目で僕をみた。

 

 「おまえらしくねえぜ。もっとクールで、かっこいいのが、創って感じなんだ。君が友達でよかったよ、だなんて、御前、かわったのな。」

 

 確かに、普段の僕だったら絶対に、言わない言葉だ。

 

 恥ずかしくて、顔から火が出る言葉だ、思い返すと恥ずかしくなってきた。

 

 「今のは取り消しだ。忘れてくれ。久しぶりで、少し気持ちが高ぶったというのか、懐かしさを感じて、おかしくなっただけだ。」

 

 「ああ、そう。」

 

 僕たちは、友達なんだろうか。

 

 友達というのは、難しいものだ。

 

 友達といえど、すべてを知ることはできないし、物事の感じ方は全く違うのだから。

 

 例えば、赤いリンゴがあったとして、友達は、青色に感じ取っているかもしれない。

 

 けれど、僕には赤色にみえている。

 

 同じものをみていたとしても、みえかたは、違うし、理解することはできない。

 

 クオリアだ。

 

 友達だけじゃない、あらゆるもの、にいえたことだ、無生物、生物問わず。

 

 道に転がっている石ころだって、僕たちが知らないだけで、生きていて、気持ちがあって、られたときは痛がっているのかもしれない。


  痛いという感覚さえ、どういった感覚なのかは、推し量ることはできないのだ。

 

 だから、こそ、僕が一方的に、友達だとか、恋人だととか、家族だとか、思っているだけなのかもしれなかった。

 

 数学はクリオアがない。

 

 数字は、すべてが共通していて、等しいものを共有することができる。

 

 自然の真実の形を数字でみることができる、だから、僕は数学が好きだ。

 

 他愛のない会話をしていると、やがて、学校から徒歩に十分の駅に着いた。

 

 学校への道を歩く。


  桜の並木道だ。

 11月28日の今日、木々は紅葉している。

 

 少し肌寒い、手袋をしている人や、マフラーを巻いている人、上着を着ている人もちらほらとみかける。

 

 「もうすぐ、冬になるのな。」

 賢は紅葉する木々を見上げていった。

 

 冬か。

 

 「冬は寒くて、虫が出ないから好きだ。」

 冬は寒いけれど、害虫は出にくい。

 

 だから好きなのだ。

 

 春、夏、秋は、害虫が出るので、苦手だ。

 

 「けどよ、ゴキブリってやつには、季節なんてないぜ。いつだって、出てきやがる。」

 

 ゴキブリか。

 

 「っち。虫が嫌いだ。」

 僕は舌打ちをした。

 

 「ははは。」

 賢は笑った。





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クオリア・・・感覚質のこと。感覚的な意識や経験。意識的、主観的に感じたり経験する質であり、脳科学では脳活動によって生み出されていると考えられている。哲学、心理学、認知科学においては、自然科学で観測、解明できないという見解が多い。


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