14 機械人形のソフトウェアをインストールする、千代さんと話す。

 次の日の朝、僕は早めに起きた。

 

 朝の三時だ。

 

 パソコンをバッグの中に入れて、滅魔大明神寺めつまだいみょうじんでらに行くことにした。


 専用のソフトウェアをインストールするためである。

 

 スマホは、黒世さんに拷問されるとき、なくしてしまった。


 服も、財布もなくしてしまった。

 

 スマホはまだ契約していたので、千代さんと契約解除に行く必要があった。

 

 なんと説明すればよいのやら。

 

 「吉兵衛きちべえさあああん。おっはようございまああすうう。」

 

 「ああ。朝からさわがしいガキだ。」

 吉兵衛さんは、朝早くから、お寺の庭の草木花くさきはな水遣みずやりをしていた。


 殊勝しゅしょうなことだと思った。

 

 「なんだい。今、何時なんじだと思ってんだい。朝の三時だよ。ばかじゃないのかい。」

 

 「へへへ。吉兵衛さん、機械人形の身体のソフトウェアをインストールしてください。お願いしますよお。」

 

 機械人形のソフトウェア。

 

 企業秘密のかたまりなのだ。

 

 「だろうな。にしても、朝三時ははやいね。」

 吉兵衛さんは、水遣りを終えると、寺の中に入っていった。

 

 僕は、吉兵衛さんの後をついていった。

 

 「PCを横に置いて。」

 

 吉兵衛さんは、例のごとく、寺の客間きゃくまのリビング机の上にpcを置き、椅子に座っている。

 

 吉兵衛さんのPCの横にPCを置いた。

 

「メールアドレスを教えてくれ。」

 

 僕はメールアドレスを教えた。

 

 「じゃ、ソフトのファイルデータを送るよ。」

 

 メールを開き、ソフトをインストールした。

 

 「ま、ソフトは、一見、どこにでもある、ゲームソフトにみえるが、中身はまるで違う、利用するのには、さらにパスワードと、秘密の答えがいるって仕様しようになってる。秘密の答えは、僕たちは、お空に大きな鳥が飛んでいるのをみた、恐ろしかった、身震みぶるいした だ。パスワードは自分で決めればいい、18文字以上、半角英数字はんかくえいすうじだ。」

 

 18文字か、かなり厳重げんじゅうならしい。

 

 さらに、長い、秘密の答えまで必要なのだ。

 

 僕は、ソフトを開くと、秘密の答えを入力し、パスワードを適当に入力し、メモを取りました。

 

 「パスワードのメモを大事にとっておくのじゃぞ。」

 

 「はい。けれど、なくしちゃいそうで怖いです。」

 

 「機械人形の身体に入れておくのはどうじゃ、二個メモを用意しておいてもよいじゃろうなあ。」

 

 ふうむ。

 

 僕はメモを機械人形の胸ポケットに入れた。


 控えにもう一つメモを取っておいた、家の部屋の引き出しに鍵をつけて入れておこう。

 

 「用事は済んだかね。はやく、帰り給え、今日は学校だろう。」

 

「はい。」

 

 時計をみると、時刻は朝、四時過ぎだった。

 

 一時間ほどかかったらしい。


 「ありがとうございました。朝から。」

 

 「ああ、まったくだ。学校、は楽しみかい。」

 

 「はい。」

 

 「いってらっしゃい。」

 

 僕は、くつを鳴らして、家に帰った、まだ朝ご飯を食べていないのだ。

 

 千代さんが起きる前に家に帰らなくちゃならない、千代さんはいつも朝の五時半に起きる。だから、あと一時間ほどで家に帰って、部屋に入る必要があるのだ。


 こっそりと、家のとびらを開けて、忍び足で、部屋に戻る。


 無事、みつかることなく、部屋に帰れたようだ。

 

 千代さんは、まだ寝ている。

 

 机にノートPCを置き起動させると、 早速、パスワードと秘密の答えを打ち込み、ログインした。

 

 ソフトのデータは、外付けの、SSDに保存してあので、どのPCからでもログインできる。


 ノートPCの他に僕はデスクトップPCを一台持っている。

 

 千代さんが、僕のPC好きなことを知って、買ってくれたものだ。

 

 千代さんは、いったいなにの仕事をしているのであろうか、僕はわからないし、知らない。

 

 家に帰る午後六時頃には、もうすでに、家にいるし、朝出る七時頃には、まだ家にいるのだ。

 

 いったい、何で稼いでいるのか皆目見当かいもくけんとうがつかなかった。

 

 PCをカチカチと動かしていることは知っているが、いったい全体、どうやって稼いでいいるのであろうか。

 

 プログラマーかな、ライターかな、投資家とうしかかな、きいても、教えてはくれなかった。

 

 秘密なのだという。

 

 おおやけには、会社員ということらしくて、時々、家を空ける日もあるが、一か月に一度あるかないか、だ。

 

 一応、片田舎の町で二階建ての庭付き一軒家いっけんやに車一台を持てるだけの経済力はあった。

 

 ノートPCでの動作を確認したのち、

 

 デスクトップPCでも、SSDをさして、ソフトを試してみる。

 

 「よし、使える。」

 

 デスクトップPCのモニターに、機械人形の全身図ぜんしんずが3Dモデルとなってみえる。

 

 現在の機械人形きかいにんぎょうの状態が、bluetooth ブルートゥースとして、電波で読み取られ、わかるのだ。


 損傷そんしょうや、異常いじょうがあれば、3Dモデル、×のマークが付き、×を押すと、異常や損傷そんしょうの内容がくわしくしるされるのだ。

 

 ソフト内のお知らせ機能により、機械人形の状態や、電池の残り量が、テキストで、表示できる機能もある。

 

 機械人形の制御プログラムもある、随時ずいじ、脳から送られてきた信号をもとに、機械人形の身体が違和感なく動く設計がされている。

 

 パラーメータが随時、休むことなく、動いている。


 脳の神経しんけいが、機械人形の電子回路全体でんしかいろぜんたいとつながっているからだ。

 

 感触も、痛みもあるのだ。

 

 だが、違和感いわかんは消えない、元の身体の感覚かんかくとはずいぶんと違う、電子回路をきめ細かくすることで、より、現実の肉体に近づくのかもしれなかった。

 

 機械人形のプログラムは随時ずいじ、脳の信号を、正確に受け取り、身体の動き、反応に合わせるために、人工知能により、修復しゅうふく、進化し続けている。

 

 身体と共存しているのだ。

 

 次世代のテクノロジーだ。

 

 現代社会に、あるとは思っていなかった。

 

 漫画か、アニメの話だとばかり考えていたが、あったのだ。


 公には知られていない、進んだテクノロジーがあったのである。

 

 「バカみたいな話だ。」

 

 友達や、千代さんに話せば笑い話にされるだろう。


  ミルカは真剣にきいて本当にするかもしれなかった。

 

 ミルカは、頭が他とは違う、異常にキレる、一つ抜き出たものがあるのだ。

 

 「いずれにせよ、誰も巻き込むのはいやだ。」

 

 秘密だ。

 

 知っているのは、僕と、吉兵衛さんと、得手ノ坊さんの三人だけ。

 

 ほかの人を、絶対に巻き込みたくはない。

 

 絶対に巻き込みたくないのだ。

 

 ソフトをいじくっていたら、時刻は、五時半になっていた。

 

 「ぴぴぴぴ ぴぴぴぴ ぴぴぴ 。」

 

 千代さんの目覚まし時計の音が聞こえる。


 千代さんが起きる時間だ。

 

 「そうちゃん、ご飯よー。」

 数十分後、千代さんが僕を呼ぶ声がきこえた。

 

 朝ご飯だ。

 

 千代さんのつくる、ごはんは、どれも味が濃い。


 だから、僕自身も濃い味の料理が好きになった。

 

 千代さんの料理は、店にでも出せるレベルでおいしい。

 

 朝ご飯を食べる。


 スマホを紛失したので、解約に行く必要がある。

 

 今日は、木曜日だから、二日後の土曜日に、自分のスマホのキャリアのある、ショップに行けないだろうかと考え、言った。

 

 「千代さん、僕、実は、スマホを紛失なくしちゃって、契約解除けいやくかいじょしてあたらしいスマホにしなきゃだめんだ。」

 

 千代さんは、すぐに言った。

 「ええよ。今週の土曜日にでも行く。」

 

 ごめんなさい。という気持ちになった。

 

 お金もかかるし、手間も取らせてしまうのだ。

 

 僕の様子をみかねて千代さんは言った。

 

 「遠慮えんりょしなくていいよ。携帯電話は必要なものだしね、紛失したことを叱ったところでどうしようもないよ。一応、そうちゃんと血はつながっていないとはいえ、親をやっているんだ、どうってことないよ。」

 

 「ごめんなさい。ありがとう。」


 よかった。千代さんが育て親で。

 

 歯磨はみがきをして、顔を洗い、肩くらいまで長く伸びた、髪を整えリュックに教科書と体操服たいそうふくを入れた。


  体育の授業があるのだが、うまくやれるか少し心配だ。

 

 機械人形きかいにんぎょうの状態を確認すると、異常なしの万全だった。

 

 「よし、行くか。」

 時刻は、七時を過ぎようとしていた。

 

 「行ってきまーす。」

 

 「いってらっしゃい、そうちゃん。」

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