9 かあさんは、僕を拷問して、手足の爪を全部剥がし、指を切りました、最後には首までちょんぎられて死にました、ご愁傷様です。


 「おい、てめえ、まだ中学生なのに災難さいなんだな。ほれ、えさだ。」

 

 橋さんが牢屋ろうやにご飯を持ってきてくれたのだ。

 

 なにが、橋、御前あのガキの餌遣えさやり係な。だ。


 神経しんけいがいかれている。

 

「おめえ、爪がもう、残ってねえのな。」

 

 拷問ごうもんだ。

 

 爪をがされた。

 

 黒世さんは、手を叩いて笑っていた。

 

 愉快ゆかい、愉快と、はしゃいでいた。

 

 悪趣味あくしゅみだ。

 

 「どうして、あんな奴が、金持ちなんだ。」

 

 「ばか、あまりでかい声でいうんじゃあ、ないぜ。黒世さんには、人を洗脳せんのうする能力がある、わからんが、あるんだ。爪をがされたいという男がいるくらいだ。黒世さんに殺されたがっているやつもいる、叩かれたり、拷問されたくてたまらない、男女が、黒世のために、命を捨ててでも、貢献こうけんしようとするんだよ。」

 

 馬鹿な事だ。

 

 逃げ出したい。

 

 世の中、コワい世界があるのを知らなかった。

 

 最悪だ。

 

 薬物注射やくぶつちゅうしゃをされているので、おかしくなりそうだ。

 

 助けて。

 

 誰か助けて。

 

 「御前も、姫さまの玩具おもちゃとして、死んでいくんだろうなあ。気の毒だ。」

 橋さんは気の毒そうに言った。

 

 どうやら、黒世さんの、玩具として、拷問を受けたのは僕だけではなさそうだ。


 玩具として、機能しなくなるまで、拷問されるということなのだ。

 

 どこで、道をあやまったのだろう。

 

 やり直したい。

 

 「後悔してるか。歓楽街かんらくがいへ来たことを。」

 橋さんはきいた。

 

 どうだろう。後悔しているのだろうか。

 

 来なければ、世界の闇の部分の一端いったん一生涯いっしょうがい知らないままの人生だった。

 

 わからない。

 

 まだ、命はあるのだ。

 

 逃げ出せるか、助かる道はあるかもしれない。

 

 希望は捨てないでおこう。

 

 けれど、どうだ。

 

 私の、大切な、指の爪はもうすべてなくなった。

 

 次は指切りが始まるかもしれない。

 

 次第に拷問ごうもんはエスカレートしていき、舌を抜かれたりするかもしれない。

 

 手足が、折られるかもしれない。

 

 皮をがれるかも知れない。

 

 空っぽにされて、最後には、力尽きて死んでしまうのだ。

 

 僕の実の母、黒世は、僕のことに気が付いただろうか。

 

 しかし、言動からして、僕の実の父のことは覚えていて、恨んでいるようだった。

 

 黒世は、僕から、阿僧祇あそうぎ 草野丞くさのすけの、面影をどこかで、見つけたのかもしれなかった。

 

 どうせ、殺されるのならば、最後に、自分が、黒世の子供なのだ、といってみよう。

 

 すごく、コワいけれど、いってみようと、思った。

 

 数時間後、

 

 黒世がやってきた。


  拷問だ。

 

 

 「今日も、あんたの爪を剥がしますからねええええ。あれれえええ、爪がもうないなああ、よおおしい、指切りするぞおおおお。おらああああ。」

 

 

 グそり。

 

 「ぎゃああああああああああああああああ。」

 

 思わず叫び散らしてしまった。

 

 右手の人指し指がやられたのだ。

 

 

 ペンチでゴチリとやられたのだ。

 

 

 指があらぬ方向に向いている。

 

 血がき出している。

 

 

 「うるさいわね。」

 バチン。

 


 顔面をむちでシバかれる。

 

 

 何度も、何度をシバかれる。

 

 パンパンにれているのがわかるほど、痛く、熱い。

 

 「黒世さん。きいてくだっ うっ。」

 

 

 バチン。

 

 

 「なんだい。あちきに、口答えするんじゃあ、ないぜ。」

 

 バチン。

 バチン。

  

 

 「そうだ、あんた、まだ、足の爪を剥がしていなかったねえ。」

 にやりと、黒世が笑った。

 

 

 「ほれ、何してんだい。あんたら、ガキのくりくり坊主の、くつと靴下を脱がしなあ。」

 

 黒づくめの黒いサングラスをかけた物騒な男たちが、僕の靴下を脱がした。

 

 「よおし、やりがいがあるってもんよ。」

 綺麗に伸びた足の爪をみて、黒世は目を輝かせいった。

 

 「血祭だ。」

 

 「うわあああああああああ。ぎゃあああああああああああ、ひいいいいいいいいいうええええええ。」

 

 

 

 黒世は興奮した様子で、うれしそうに歓喜の笑い声をあげた。

 「ひゃはははははH。いい声で泣くねええ。いい声だああ。よしよし、いいぞおおお。いい反応だ。いいおもちゃを見つけっちゃたぞお、ウシシシし。」

 


  もう足の爪もなくなっていた。

 

 

 「あーあっ、最後の一つかああ。ざんねーーーん。ぐそりいいいい。ハート。」

 

 

 「ひい。」

 足の爪が全部なくなってしまった。


 ペンチで引っこ抜かれてしまった。

 

 痛いなんてものではなかった。

 

 血が噴き出している。

 

 「当面は道も歩けないねえ。ふふふ。」

 

 悪魔だ。

 

 「今日は、終わりよお。よかったわねえ。また明日ねふふふ。」

 

 僕は決死の覚悟で口を開いた。

 

 黒世は、奴隷どれいである僕が口を開くと、拷問が加速し、さらにひどいことをしてくるので、黙っておくことが一番なのだが、どのみち、死ぬのだ。


 きいておいて損はないだろう。

 

 


 「あの、僕、実は、黒世さんの実の子供なんです。」

 

 


 一瞬、空気は凍り付いた。

 

 時が止まったかと思われた。


 背筋の寒くなるほどの、恐怖を感じた。


 「え。今、あなたなんて、言ったの。わたしの子供って、いったわよねえ。」

 

 目が怖い。

 

 口は笑っているけれど、目が笑っていない。

 

 怒っているはずなのに、感情がない、コワい。

 

 「はい。僕は、黒世さんと、草野丞さんの子供なんです。」

 

 



 

 次の瞬間、首が飛んだ。

 

 



 え。

 

 何が起こった。

 

 


 地面に転がってしまった僕の首。

 

 

 ああ、足元しかみえない。

 

 死ぬのか僕は。

 

 上を見上げると、あの黒世さんが、まさか、といった様子で、震えていた。

 

 


 「ど、どうして、生きているの。まさか。まさか。ああ、ああ。なんてこと。」

 



  黒世さんにとって、川で捨てた後、僕は死んだことになっていたのであろうか。

 わからない。

 

 僕はもう、終わりなのか。

 

 意識が遠のいていく。






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災難・・・思いがけず降りかかる不幸な出来事。

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