2 母さんは、歓楽街の女王でした、ボコボコに殴られて、牢屋に入れられ、殺されかけましたが、吉兵衛さんと得手ノ坊さんに助けられた。

8 かあさんは、僕をぼこぼこに殴って牢屋に閉じ込め奴隷にしました。

ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。

 電車に揺られて、三時間のところに、歓楽街かんらくがいはある。

 

 「次は、歓楽街、歓楽街。」

 

 次で降りなくてはならない。

 

 まともな人間は決して歓楽街にはいかない。

 

 政府も手も付けられない無法地帯むほうちたいだ。

 

 成らずものどもや、社会に見放された人間どもの集まりだ。

 

 駅を降りると、すぐ目の前にあるのは、大きな赤い門だ

 

 

 「大魔人門だいまじんもん、でけえなああ。」

 

 

 高さ15メートルほどであろうか、巨大な門だ。

 

 吉兵衛きちべえの言っていた、案内人あんないにんはどこにいるだろうか。

 

 門のまわりには、ちらほらと、人がいるが、肝心かんじんの案内人がどこにいるのかはわからない。

 

 黒色のニット帽を被った、ガタイのいい身長180センチメートル程度の、黒髪の男だということはきいていたが、あたりが広く、人もそこそこいるので、見分けがつかないのであった。

 

 不審者ふしんしゃ様相ようそうで、あたりをうろうろとして、いると、後ろから声かけられた。

 

 

 「おい、君、賀籠六かごろく 創戦そうせんくんかね。」

 

 

 「はい。」

 

 振り返ると、黒色のニット帽を被った、ガタイのいいお兄さんがいた。

 

 「吉兵衛のおっさんの言っていた通り、ガキだな。本当に中学生が歓楽街に行くだなんて危険にもほどが、ある、まったく何を考えているのやら。」

 

 どうやら、歓楽街は、思っていたより、危険な場所ならしい。

 

 「俺は、橋 冬一、歓楽街じゃあ、少し、有名で、ある程度、顔もきくから、おめえは俺についてこい、黒世に会わせてやると、ま、どうなってもしらねえがな。」


 警戒を強め、歓楽街に入った。

 

 「あまり、周りをじろじろ、みんじゃあ、ねえぞ。」

 

 橋さんは、僕をみていった。

 

 恐ろしい街だった。

 

 座り込んで、嘔吐おうとするもの、電柱に話しかけている者、突然、道で脱ぎだして、自慰行為じいこういをする人、裸踊はだかおどりをする人、性行為せいこういをしている人、もう、治安が悪いなんてものではなかった。

 

 「橋さん、あの人はどうして、電柱に話しかけたり、狂って泣きさけんだり、体中に傷があるのですか。」

 

 「ああ、あまりみんじゃあねえぞ。あれは、薬中だね。強い劇薬げきやくのうが侵されて、夢でもみてんだろ、薬が切れると正気でいられなくなってああやって、地面に頭をぶつけたり、ナイフで自傷行為じしょうこういをしたりするんだ。」 

 

 コワかった。

 

 生まれて初めてコワいという感情を強く覚えた。


 橋さんは、僕をみかねて、心配した面持おももちでいった。

「震えてんのか。お前。まあ、むりもねえか。だが、もっとやべえのもいるんだぜ。」

 

 


 バン!!!。


 


 銃声がきこえた。

 

 産まれて初めて、生の銃声じゅうせいをきいた。

 

 橋さんはいった。

 


 「処刑しょけいか。」

 

 

 「処刑って。」

 

 「処刑だよ。歓楽街じゃあ、弱いやつが強いやつに逆らったり、対応を誤ったり、取引に失敗したり、すりゃあ、落とし前をつけるために、ああやって、処刑されちまうんだよ。おめえ、も、やばいやつに目を付けられねえように、警戒けいかいしとくことだね。」

 

 恐ろしいところだ。

 

 場違いなところだ。

 

 銃のち合いをしている、地帯があるらしく、遠方えんぽうからは、銃の音がずっと響いている、叫び声がずっときこえている、やんだと思うと、また違うところから泣きさけぶ声がはじまるのだ。 

 

 恐ろしいところに来てしまった。

 

 「後悔してるか。歓楽街はおめえみたいな、ボンボンが来るところじゃあねえんだよ。」

 

 僕は、怖かった。


 おしっこを途中で漏らしてしまったけれど、来たからには、一目、実の母をみてから、帰りたかった。

 

 「後悔こうかいしてるよ、でももう、乗った船だ、黒世さんに会うまでは、帰れないよ。」

 

 「ふうん。ただのガキじゃあねえようだね。小便はおらししちゃった、みたいだが、ね。ワラワラ。」

 

 「やめてくれ。僕だって漏らしたくて漏らしたわけじゃあないんだ。おっかなくて、足が震えて止まらないんだよ。」

 

 歓楽街は恐ろしいところだが、しだいに、感覚が麻痺まひしてくるもので、銃声がきこえるのが当たり前で、人々が殺しあったり、物を盗りあったり、薬中が泣きさけんだりしていても、普通のことに思えてくるのであった。

 

 「ほう、もう、随分、慣れてきたみたいだね。君、素質あるね。」

 

 素質。

 

 いやな素質だと思った。

 

 「普通の奴だったら、もう、帰っちまうぜ。」

 

 そりゃ、そうだ。

 

 「ま、もう少しの辛抱だ。黒世さんは、歓楽街じゃあ、女王なんて呼ばれてる、ま、一応、結構偉い人ってわけだね。だから、おめえも対応を誤るなよ。」

 

 僕の実の母親は、すごい人なのかもしれないと思った。

 

 歓楽街の中央にそびえ立つ、宮殿。

 

 赤い漆喰しっくいで塗られた柱で作られた宮殿きゅうでんの中に女王はいるのだという。

 

 「見えるか、漆紅城しこうじょうだ。城の中に、女王はいる。漆紅城は、黒世さんが、使える男女子供どもに作らせた、城なんだ。」

 

 中に入ると、城の庭で、女どもが裸で、踊っていた。

 

 まわりには男たちが、鼻の下を伸ばして手を叩きはやし立てている。

 

 「あれはなんですか。」

 

 「ああ、金持ちの娯楽だよ。ああやって、金持ちから金をとってる、他にも麻薬売買まやくばいばいだとか、人身売買じんしんばいばい、子供売り、武器売り、臓器売り、大体のヤバいことには手をだしてるよ。だから、漆紅城が建つし、黒世さんは、めちゃ、金持ちだ。」

 

 城の中に入ると、吹き抜けの広いロビーがある。

 

 奥にエレベーターが四っつ付いていた。

 

 「黒世さんは、最上階の二十六階に住んでる。天守閣ってやつだね。」

 

 まるで、映画か漫画、アニメの世界だと、思った。

 僕の知らない世界だった。

 現実は、想像していた世界よりずっと広かった。

 

 エレベータに乗って、二十六階に出ると、一面が赤の世界が広がっていた。


 どうして、赤なのか、私にはわからなかった。

 

 「かべは全部ルビーでできてるんだ。」

 橋さんは、いった。

 



 すごくおそろしい、狂気きょうきの赤だった。

 


 襖を開けて奥へ進んでいく。

 

 誰もいない。

 

 長い長い、廊下を歩いて、一つの扉があった。

 

 橋さんが扉に暗証番号あんしょうばんごうを入力すると、扉が開いた。

 

 王座おうざと書かれた、部屋の奥に、彼女は座っていた。

 

 


 ゲームをしていた。


 


 テレビゲームだ。

 

 

 「誰じゃ、儂のゲーム中に邪魔じゃまをするバカは。」

 

 

 「失礼致しました、はし 冬一ふゆいちでございます。」

 

 黒世さんは、橋をみると、一息ついて、さっと、詰み寄った。

 

 「おのれ、われがどれくらいこのゲームをやるのを楽しみにしとったか、わかっとるんやろおなあ、面倒なめ事で用事やったら、許さへんからなあ。」


 コワい。

 コワい。

 コワい。

 恐ろしい。

 

 小便をちびりそうなほど怖い女じゃ、ねえか、と体を震わせた。

 

 橋さんのこめかみには、黒世さんの銃口が突きつけられているのだ。

 

 大丈夫なのだろうか。

 

 「面倒事めんどうごとは、何とかしております、ゆえ、姫さまが、お出になる必要はございません。」

 

 

 橋さんが、頭を地面に擦り付けて、土下座どけざして、いる。


 

 橋さんが、土下座している。

 

 グリグリと、

 頭をハイヒールの靴をいた足でみつけられている。

 


 え!?。

 



 めっちゃ、コワいんでですけどおおおおお。

 

 

 「おい、橋、あのチビはだれや。」

 

 

 コワい、めっちゃニッコリ顔で、話かけている。

 

 「はい。姫様に会いたいとのことで、連れてまいりました。」

 

 「へえ、かわいいガキやな。でもまあ、なんか、みてるといらいらさせるガキやなあ。」

 

 

 黒世さんは、僕の目の前にすっと、現れると、グーパンチで、殴った。

 


 「なんか、殴りたくなる顔なんやわ。鬱陶うっとうしいというのか、うちを穢したあの、男に似てるんやわ。腹立つなあ。お前の顔。なあ。死ねや。」

 

 黒世さんは、僕をぼこぼこに殴った。

 

 もう、立ち上がれないほどに殴った。

 

 



 「あのガキは、うちの奴隷どれいな、牢屋ろうやにいれといてや。」

 

 



 え。奴隷。どうなるんだ。僕。







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


薬中・・・薬物中毒の略称。薬物の過剰な毒が生じている状態。


嘔吐・・・口から胃の内容物を吐き出すこと、食ったものを吐くこと。


麻痺・・・通常の働きや動きが停止すること。


ルビー・・・ダイヤモンドに次ぐ硬さで、酸化アルミニウムにクロムが1パーセントほど混じったもの。


聳る・・・山などが非常に高く立っていること


臓器・・・体内のこと


人身売買・・・人権を無視し、人を売買すること。


奴隷・・・権利・自由を認められず、道具として利用された人の事、また、心を奪われ、他をかえりみない人


鬱陶うっとうしい・・・心が晴れない状態、また、邪魔で煩わしいこと

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