6 親友の蒼柳 賢と通学路で喋ったり、放課後、大学生の彼女ミルカと海辺で落ち合ったり。

 朝起きると、僕は制服に着替えて、学校へ行った。


 電車通学だ。

 友達の、蒼柳そうりゅう けんが話しかけてきた。

 

 「よう、創戦そうせん 今日も学校だな。最近付き合いが悪いじゃねえか。昨日は祝日しゅくじつだってのに、連絡がつかねえしよ、それに、学校終わり、何してんだよ。」

 近頃ちかごろは、吉兵衛きちべえさんの寺で、話をするので、友人と遊ぶことが減ってきていた。

 

 「勉強だよ。」

 

 「勉強ねえ。ま、勉強は大事だけどよ。俺ら、難関高校の斯波高校しばこうこう 目指してるからな。でもよお、御前、無理はすんなよ。時には遊ぶことも大事だぜ。」

 賢は、心配そうに、私の顔をのぞき込んだ。

 

 世話焼せわやきなのだ。

 

 授業を受けて、ノートを取る。

 

 くだらない、日常だが、楽しい当たり前の生活だ。

 

 先生がいて、生徒がいる。

 

 普通で幸せな毎日だ。

 

 成績優秀せいせきゆうしゅうで、運動神経抜群うんどうしんけいばつぐんだが、謎の多いやつだ。と学校では、言われている。

 

 学年で、成績せいせきは常にトップだ。


 レベルの高さは全国でも、平均的へいきんてきな学校なので、当然の帰結きけつだと思う。


 別に勉強を頑張っているわけではないが、問題が簡単なのだ。


 普通に解けてしまうのだから仕方がない。


 僕には、大学二年生の彼女がいる。


  六歳年上の彼女だ。


 ある種の犯罪の匂いがしないでもないが、自分くらいの精神年齢だと、年上でない

と、どうにも話がみ合わないのであった。


 数学科の変わった女で、四六時中何かを考えている、変質者へんしつしゃではあるが、正論しか言わないし、やけに頭の回転が速く、喋りだすと止まらないので、みていて面白くて飽きない。


 僕は小学五年の時、当時高校二年の彼女 志村しむら ミルカと出会ったので、もう四年ほどの付き合いになる。


 街で行われる、夏の花火大会で出会ったのだ。


 一人で、ポツリと座って、ずっと何かを考えていた。

 

 友達と来ていたのであろうが、馴染なじめずに、林檎飴りんごあめをぺろぺろと舐めて、隅っこで、座っていた。


 変わった女だと思った。


 思い切って話しかけてみた。


 どうしたわけか、話が弾んで、面白い女なのだと、気が付いた。


 あれから、ちょこちょこ、会うようになって、付き合い始めたのだ。


 ミルカは、僕を子供だと見下さなかったし、僕を一人の男として、みてくれた。


 ミルカのことが好きだ。

 

 僕の両親が凶悪犯きょうあくはんであることも、ミルカは知ったうえで、話してくれる、付き合ってくれる。


 きっと、ミルカは、誰よりも心が広くて寛大かんだいなのだろうと、思った。

 

 部活が終わって学校から帰る、わずかな時間だけが、ミルカと会える時間で、僕たちは、海辺で落ち合う。

 

 誰もいない海辺うみべで、肩を寄せ合う。

 

 幸せだ。


 本の少しの時間だけれど、時間があるとき、会うようにしているのだ。

 

 「創戦 すきーーーーーーーー。」

 ミルカは、こんなに恥ずかしいセリフを悪びれもなくいうのだ。

 

 彼女には恥じらいの感情が欠如しているのかもしれなかった。


 まっすぐで、率直で、裏表のない、僕とは全く別種べっしゅの生き物に思えた。


「べたべたくっつくな。」

 

 ミルカは、悲しそうに僕をみた。

「っちつれねえの。」



 僕は、子供だ。


 ミルカはもう成人済の女性で、付き合ってはいるが、きっと、将来にわたって結ばれることはない。


 ミルカは魅力的みりょくてきな女性だ、きっと、いくらだって、出会いがあるだろう。


 「僕は子供だ。稼げるようになるのに、あと何年かかるのかもわからない。15歳で、高校生になって大学を卒業して、就職しゅうしょくするか、個人で何かをして稼ぐとなる。あと、八年くらい、は、付き合ってないといけない。僕たちに、あと八年付き合い続けれる愛はねえ。八年後、29歳と22歳か。」

 

 ミルカは、どれくらい、僕のことが好きなのだろうか。


 僕と結ばれたいと思っているのだろうか。


 ずっと、続くのだろうか。


 わからないけれど、僕はずっと続けばいいと思っている。


 問題がない限りずっと、続けばいいと、思っている。


 僕が、彼女の重りにならない限りはずっと。


「考えすぎよ。」


 恥ずかしくて、もう、どうしようもないことを抜け抜けという、女だ。

 

 僕は、正直になれない。


 どれだけ、愛を伝えられても、どこか、自覚が持てないのだ。


 私は、人の愛を信じることが難しいのだ。


 どこか偽物にきこえて、しまう。

 

 だから、いうのだ。

 「真実さ。」


 ミルカは心外だと、いった様子で、私にいった。

 「冷たいなあ。」


 遠ざける。

 

 遠ざけている。

 

 大事なものほど、遠くに置いておきたくなる。


 自分といると、ろくなことにならないから。

 

 大事なものをつくることが怖い。


「ずっと前から、子供のころから一緒にいるみたいな感覚がするのよね。」


 話すことも、基本的には、くそどうでもいい、世間話とか、勉強の話ばかりだ。


 ミルカと話すことで、僕は活力を得られる。


  ミルカを守りたいと思える。


 だから、僕は、将来は、ちゃんとした仕事をして、ちゃんと稼ごうと思える。


 「いつか絶対別れることになる。誰か別の男と子供ができた時、会わせてくれ。」


 「もう、何いってんだか。」


 ミルカは、悲しそうにしていた。


 ただ、ぼくには、特に将来何をするという、目標もなかった。


 だいたいのことはできてしまうが、何をすればいいのかはわからなかった。


 スランプに陥っているのだ。


 人生のスランプに。


 自分のことがわからなかった。


 千代さんに育てられたが、実の親のことは全く知らなかったし。

みてみぬふりをしてきた。


 どこか、心の闇になっているのかもしれない。


 得体のしれない、恐ろしい事実があって、僕は知らないだけなのかもしれない。

だから、触れたくなかったのだ。



 しかし、私は昨日、実の父親と会ってしまった。


 僕の実の父親が処刑される。


 何か、人生の岐路きろに立たされている気がした。


 何か、大切な何かがある、予感がするのだ。

 






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

帰結・・・結論、結果。


陥る・・・望ましくない状態になる。


岐路・・・将来を分けるような重要な場面。


スランプ・・・心身の状態が一時的に不振ふしんになっている状態。

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