5 千代さんを、守りたい
「ああ、もう、四時だ。二時間も話し込んでいたな。すまない。つい、中学生相手に、深い話をしてしまったよ。」
ああ、二時間も話していたのか。
やっぱり大人は面白い。
「いえ、いいんです。勉強になりました。」
面白い話がきけて良かった。
「
つづけて、いった。
「ま、もう帰り
「かなり押してますね。家に着くころには、六時頃です。育て親が
大門は安心した様子でいった。
「君にも、帰りを待っていてくれる人がいるんだね。」
「はい、僕の育ての親はいい人で良かったです。」
鈴音さんも、堂本さんも、よかったといった風に胸をなでおろした。
「いい人に巡り合えてよかったね。」
鈴音さんは、言葉を口にした後、ポケットから携帯電話を取り出して、言った。
「連絡先だよ。一応交換しておこう、何かあったときに連絡してきてくれ。」
「ありがとうございます。」
堂本さんも携帯を取り出すと、連絡先を交換した。大門さんにしても同様だ。
「じゃあ、帰ります。ありがとうございました。さようなら。」
駅に向かう途中の街の
誰も僕のことを知らない街で、私は歩いている。
風が心地よくて、別世界に来た感動を覚えていた。
私の住んでいる、場所は、人口の減少で、年々、
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。
電車に揺られているとき、ふと、実の母親のことが気になった。
吉兵衛のやつは、クソビッチの碌でなしだと、いってはいたが、実際はどうなのであろうか。
実の母親にも会ってみたいという気にもなってきたのである。
明日、学校終わりに、吉兵衛の寺にでもよって、実の母親の話でもきこうとも考えたのであった。
電車の中は、
誰かが、いつ、どのような事件を犯すのか分かったものではなかったので、常に
僕が、まだ
スマホいじっている、中高生がいる。
いろんな人が、電車に乗っていて、降りていく。
変わらない日常だ。
誰もが一度は体験するであろう、変わらない日常だ。
僕は、電車から降りると、家へ向かって歩き出した。
いつもの帰り道だ。
ひとけの少ない道だ。電柱があって、ちらほらと
日常に帰ってきた感覚を覚える。
僕の住んでいる家には、千代さんが住んでいる、住んでいるというよりも、僕が千代さんの家で暮らさせてもらっている。
千代さんと、僕は二人暮らしだ。
千代さんは、35歳の
子供はいない。
千代さんは、21の時に僕を川で拾ったのだという。
一体、いくつの時に結婚し、未亡人になったのだろう、と不思議に思えた。
女は16から結婚できるが、はやすぎはしないだろうか。
今の千代さんをみる限り
もともとは、違う街から、移り住んできたみたいなので、千代さんは結構、謎な人物だったのだ。
「ただいまー。」
家の扉を開けた。
「あら、お帰り、少し遅かったわねえ。どこへいっていたの。」
千代さんは、とても綺麗な人で、
どこか、
「ま、ちょっと、友達と遊んでいたんだ。」
嘘だ。
本当は実の父親に会いに行っていた。
けれど、ぼくには、到底、育ての親の千代さんに、実の親に会ってきただなんて、言えなかった。
千代さんは、少し上を向いて考えたのちに、一息ついていった。
「ふうん、何か隠してなあい。君。まっいっか。おかえり そうちゃん。」
千代さんは、僕のことを、そうちゃん、と呼ぶ。中学二年生にもなると、少し照れくさくて恥ずかしいが、千代さんだったら、いいかなあ、とも思うのであった。
いつも通りの食卓で、僕たちは、
笑いあった。
いつも通りだ。
幸せな日だなあ。
僕は、ずっと、続けばいいと思った。
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喧騒・・・物音や人の声の騒がしいこと
窮屈・・・空間や場所にゆとりがなく、自由に身動きがとれないこと
未亡人・・・夫と死別または、離婚し、再婚していない独身の女のこと。
大年増・・・30後半から40歳くらいの女。
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