3 精神科医と犯罪心理学者と検察

「おい、ちょんちょん坊主ぼうずや、」

 

 検察のオカマが、話しかけました。

 

 ちょんちょん坊主とは、いったい誰の事なのであろうか。

 

 「まだ、子供の坊主や。おぬしは、薄汚い刑務所けいむしょの中におるが、まだ、みたところ、子供じゃろう、どうしたのじゃ。」

 

 どうやら、ちょんちょん坊主とは、僕のことらしい、全く、失礼極しつれいきわまりない、オカマ野郎だと、腹を立てました。



 

 「心外しんがいですよ、姉さん。僕はちょんちょん坊主なんかじゃあ、ありません。一人の、立派な中学二年生で、男で、まっとうに日々を生きている、賀籠六 創戦かごろく そうせんだい。」



 

 「うむ。きいたことのない名だが、失礼した。子供が、いる場所ではないのでついな。ごめんなさい。」

 

 検察のオカマはあやまり、言った。


 

 「私は、籠目屋かごめや弥四郎やしろうだ。性転換せいてんかんする前は、という名だった、今は、鈴音すずねという名だ。」


 

 どうして、自分の生まれ持った性別をやめてまで、異性になろうとするのかがわからなかった。

 

 「どうして、性転換なんてしたんです。せっかく、男として生まれてきたのに。」

 

 「さあな、わからん。まだ若かったから、少し、おかしかったのかもしれん。女装趣味じょそうしゅみはあったし、男が恋愛対象れんあいたいしょうではあったが、別に性転換するほどのものではなかった。生まれ持った性で、過ごした方がきっと、幸せだった。もう、私は、自分の子供を残せない、時々、自然の摂理せつりに反することをした罰がおりてくるのではないかと、不安になることがある。」

 

 鈴音さんは、どこかさみしそうで、中性的ちゅうせいてきであった。

 

 僕には、鈴音さんの気持ちがわからなかったしい、苦悩くのうを理解することもできなかった。

 

 確かに、男でも、男と付き合うことはできるし、女装だってできるのだ。

 

 わざわざ、元ある性別まで捨てて、生命の繁殖はんしょくを不能にしてまで、女の身体の出来損ないを手に入れる必要があったのかは、わからない。

 

 歳を取れば、転換てんかんする気力もなくなって、自分の生まれ持った性を受け入れられるのかもしれなかった。

 

 「鈴音さんは、検察官けんさつかんとしては、有能ですよ。」

  

 犯罪心理学者の女が割って入ってきた。



 「私は、犯罪心理学者の 堂本どうもと むぎです。以後よろしく。」


 

 「ああ、どうも。賀籠六です。」

 

 「鈴音さんは数多くの事件の解決の手がかりとなる情報を入手し、貢献こうけんしてきたんです。子供は残せないし、もう、一人の人という生命としては、ただの、無機物むきぶつでしかないかもしれませんが、彼女の活躍は素晴らしいものでござんす。」

 

 「ありがとうございます。堂本さん。」

 

 「いえ、いいんです。」

 

 精神科医の男が、話に割って入ってきた。


 

 「どうも、はじめまして、賀籠六さん 私は精神科医の大門だいもん 影一郎かげいちろうです。」



 「ああ、どうも、はじめまして。賀籠六です。」


 大門は名を名乗ると、会釈して、たずねた。

 

「ところで、賀籠六さん、君は、どうして、薄汚い刑務所なんかに、来たんですか。」 

 

少し間をあけて、僕はいった。


 

 「ああ、実は、死刑囚の、阿僧祇あそうぎ草野丞くさのすけは、僕の実の父親なんです。」


 

 一瞬いっしゅん、あたりがこおり付いた。


 静まり返った。

 

 同情どうじょうの念が周囲を凍らせたのだ。

 

 「そりゃあ、つらい人生だったでしょうねえ。」

 

 鈴音さんが、優しさと慈愛じひの目で私をなぐめた。

 

 「君はえらいよ。うん。クソな親にでも、ちゃんと、向き合っているんだ。お姉さん感動だよ。」

 堂本さんは、私をめたたえた。 

 

 「阿僧祇あそうぎの息子だったとはね。もうじき奴は、処刑だ。何か、思うところがあって、会いに来たのだろう。」

 大門だいもんさんは、私に近づくといった。

 

 「で、どうするんだい。私たちは、精神疾患せいしんしっかんで、頭から血を流している、阿僧祇のクソ野郎の検査をするのだが、君は残るかい、意識いしきがいつ戻るのかもわからない。奴は明日には拘置所送こうちじょりだ、三週間あとには死刑が執行される。」

 

 「明日は学校なので、帰ります。」

 

 僕は学生なのだ。

 

 学校には通わなくてはならない。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


性転換せいてんかん・・・医学的な処置を行い、性別を異なる性別に近づけること。


摂理・・・自然界を支配している法則。


無機物・・・生命をゆうさない。


拘置所・・・刑事被告人、死刑囚を収容する場所。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る