第78話 卒業

「もうお前に教える事は何もない。今後は自分で何とかしろ・・・・だが一つだけ言っておこう。こう見えて俺も毎日が勉強だ。いくらスキルで鍛冶の腕があがったと思ってもそれはあくまでスキルの恩恵だからだ。自分自身の腕を上げるには常に向上心を持って挑まねばならん。だからケネト、常に前を向いて進め。振り返るな。そして止まるな。」


 親方が俺に弟子の卒業を伝えてくれた。そして最後の薫陶と言うべき言葉。


 何故だか俺は泣いた。

 そして誰かがそっとハンカチを・・・・って何でヒルデなんだ?別にセシーリアちゃんじゃないとって意味じゃないぞ?

 何でこいつがこんな所に何度も来るんだよ!あんた王族だろ!兄は国王だろう!ほいほい来ていい身分じゃねえ!


「気にするな。剣の受注を行いに来た、という事になっている。何せ国が管理する剣の受注だからな。我自らやってきたという訳だ。という訳で剣1000振り頼む。」

 色々突っ込みどころがあるが、何処から突っ込めば?

「何だ?我ならいつでもつっこもごもごも・・・・セシーリア酷いではないか!」

「駄目ですよその言葉を発しては。」

「そうなのか?まあケネト、我はいつでも受け入れるぞ?たとえ衆目があってもだ。」

「・・・・何意味分からん事を言っているのか理解できねえが!1000振りとか!無理に決まってるじゃねえか!」

「何だケネト、お前の限界はこんなものか。我を失望させるな。」

 一寸冷静になってみよう。

 最近ずっと俺の所に入り浸っているヒルデ。

 ここ1年ほどか?

 それはいいんだが、こいつ仮にも王女・・・・国王の妹ってなんていうんだっけ?王女であっているのか?


「ヒルデガルト様のお父様は前国王ですから、ヒルデガルト様は王女様で宜しいのですよ。」

「そうなのか?」

「よく知っているではないか!我は爵位を持ち合わせておらぬし・・・・ケネトが我を娶ってくれればまた話は違うぞ?ケネトと夫人と・・・・!!!!」


 ・・・・今までのこいつを知らないやつから見たら高慢な物言いのヒルデだが、こいつはこれが素だからな。


 そして今までになかった反応だ。


【きゃあ恥ずかしい】って・・・・何だこの生き物、可愛い。


 は!俺とした事が年上の女を可愛いとか、ないな。


 おっとすっかり忘れる所だったぜ!

「なあヒルデ、1000振りとか素材はどうすんだよ!」

「ああ、一姫二太郎でいいぞ?うん?もっとがいい?仕方がない奴じゃ!」

 ・・・・ん?一姫二太郎って何の事だ?素材の事か??


 そして親方が俺の肩を叩いてくる。


「2人の妻とかケネトよ、お前の人生色々詰んでいるようだが、お前には鍛冶がある。そこに希望を見出すのだ。」


 親方、一つだけってさっき言ってたじゃないか。


 こうして俺の工房が完成したんだが、いきなり波乱の幕開けだぜ!

 え?まだスタートすらしていないって?




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