第73話 エイセル親方、何処へ行く

 レオ・エイセル親方がエイセル工房を出て行った。


 この衝撃はすさまじく、残された弟子にとっても突然の出来事で、動揺を隠せない。


「なあ、もしかして俺達が親方を追い出した事になるのか?」


「だがここは親方の・・・・建物だよな?」

「まあいなくても、普通の仕事は俺らでこなせるけどな・・・・親方が直接打ってたのはどうにもならん。」

「どうする?」

「・・・・ここは考えようだ!俺達は独立したんだ!」


 新生エイセル工房。

 最初こそ何とかなったが、いかんせん親方が受けて・・・・正確には弟子が勝手に受けていたのが後に発覚、その後親方の腕を見込んでの仕事がとん挫し、窮地に立たされる事になる。


 そしてエイセル工房の看板、いつの間にか【イ】【ル】が誰かによって取り除かれており、【工 セ 工房】となっていた・・・・


エセって・・・・



 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


「なあ親方、鍛冶師が炉もなくてどうすんだよ!」


「いやあすまんなケネト!まさかあいつらがあんなたわけ共とは気が付かなかったぞ!何せあいつらは頼まれて受け入れたんだがな・・・・失敗だな。ケネトに目を治療してもらってから仕事が増えすぎてなあ、一人ではどうにもならん状態に陥ってな。そんな折鍛鍛冶ギルドから弟子の斡旋があったんだなこれが。それなりに腕のある連中だったからそのまま受け入れたが・・・・」


 親方は良くも悪くも鍛冶師だ。それも頑固な職人。そして自分の事だけしか面倒見れねえタイプだな。

 つまり、親方は自分だけで仕事をこなすから、弟子は直接指導を受けられん。

 まあ俺も見てるだけだったからな。

 見て覚えろ、俺の仕事をどうにかして見て盗め!だ。


 よくわからんがつまりあの丁稚共はそれをしなかったんだろうな。


 親方の工房は見た感じ売れに売れまくっていた。

 そして親方の所に集まった連中は、元々それなりの腕があった・・・・


 そして数打ちなら自分でも難なくこなせていたんだろう。


 馬鹿な連中だ。


「しかし親方、現実的に今後どうするのですか?まさか鍛冶師を引退されるとは思えませんが?」

「ケネトの嫁さんよ、俺は死ぬまで鍛冶師だ!だから・・・・どっかいい場所知らねえか?」

「そうですね・・・・この街に拘りはありますか?」


「いやねえな。単純に俺はこの街で生まれ育った。そして周囲には鍛冶に必要な色んなのに不自由してなかったからこのまま居座ってただけだ。ついでに言うと今の工房も、前の工房があまりにも老朽化したから鍛冶ギルドが斡旋してくれた物件だ。」

「そういう事でしたら・・・・王都へまいりませんか?」

「今更王都か?」

「ええ。王都であればきっと純粋に親方の腕に惚れ込んで弟子入りを求める鍛冶師見習いも集う事でしょう・・・・親方、そろそろ本格的に後進の育成をしてみませんか?」

「あ?ケネトがいるだろうが。」

「・・・・ケネト様は既に親方の全てを学んでおりますわ。ケネト様に必要なのはひたすら打ち込む事だけですもの。それより心配なのは親方の身体ですわ。もうずいぶん無理があるように感じられます。しかもそれは魔法で治療できるような問題ではなさそうですし。親方の仕事の補助を任せられる人材の育成を強く提案いたしますわ。」


 そうなのか?親方の身体はもうそんなに悪いのか?

「なあセシーリアちゃん、俺の魔法でも治せねえのか?」

「残念ながら私の見立てでは魔法で治療できませんわ。」

「なあ、親方どういうこった?」

「ああ、俺ももう歳だからな。体のあちこちが悲鳴を上げているのさ。」

 しらんかった。


「では他に当てがないようでしたらこのまま王都は向かいましょう。」


 あれ?折角王都からこっちに戻って来たのに、また王都なのか?


結局セシーリアちゃんが王都に連絡を取ってくれて、親方と俺、そしてセシーリアちゃんの3人で王都に向かう事になった。


「なあ、親方って家族はいないのか?」

「家族だあ?そんなのいねえな。」

「何でだよ?」

「鍛冶さえしていれば俺はそれでいいんだ。」

「生きてく上で家族は・・・・俺は必要と思うんだが?」


何故か親方はそれ以上答えてくれなかった。

何かあんのか?

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