第68話 詫びるヘンリク、困惑する俺
「久しぶりだなケネト、そして・・・・すまなかった!詫びて済む問題じゃないが、まずは謝らせてくれ!親父のした事とはいえ、当時のモッテセン王国の国王である父の仕業とはいえ、国がした事だ。本当に済まない。そして救出ができずこれも済まない。何せ当時の国王である父自らの命令でな、ケネト達の居所を調べられなかったのだ。」
俺は別に気にしちゃいない。
何故って?
いくらヘンリクが謝罪しようと、俺達が鉱山で強制労働させられた事実が消えるわけでもないし、時間を取り戻す事ができるわけでもない。
「気にするな。当時の国王だった奴の命令なのだろう。それは仕方がない。もう過ぎた事だしな。」
だがこれでヘンリクの気が済むわけではない。
だからと言ってヘンリクに合わせる必要もない。
「そういう訳にはいかない。何か詫びをしたい。時間は取り戻す事ができないが、ケネト達が受けた仕打ちの代償が必要だ。これからの生活もあるだろう。」
結局鉱山で強制労働させられていた連中には一律それなりのお金を払う事となった。
そして希望者には職場の斡旋だな。
そして当面の衣食住の確保。
そうそう、俺達鉱山で働いていた面々が騙された難民の最後だったらしく、既に女達は生きている限り全て保護、現在は手厚く扱っているようだ。
だがいつまでもそうしていられないから、いずれ自立してもらう必要がある。
まあ女は強い。だから後は何とかなるだろう。
そして俺はヘンリクの謝罪を一応受け入れた風を装った。
何せ特に謝罪の必要性を感じていないからだ。こうして俺は今こうしてこの場にいる事だしな。
「もういいか?俺はそろそろ戻る。」
だがここでヘンリクは狼狽え、ヒルデは・・・・ヒルデは俺の隣にいたんだが、ぎゅっと手を握ってくる。
「戻るってどこへだ?」
「一応親方の所にと考えている。俺は鍛冶師希望だ。だからまずはエイセル親方の所に行き、その後は考える。」
ここで困ったのがヒルデだ。
「兄者!我も同行「駄目だ!」し・・・・何故なのじゃ!」
「ヒルデガルド、わかっていると思うが今や王族は俺とお前だけだ。この状況下、お前をケネトの所に向かわす訳にはいかない。分かってくれ。」
「いやじゃ!我はケネトと一緒に居たいのだ!そうだケネト、我と同衾せぬか?ケネトが望めばこの地に工房も開く事ができる!そして我と夫婦の契りをだな・・・・」
俺はそっとヒルデの手を取り、じっと見る。
「今それはできねえ。分かるだろう?この状況でヒルデに甘える、そりゃあ楽だろうが違うと俺は思うんだ。俺はそれを受け入れちまえば人として終わってしまうと思っている。」
「だ、だがそれでは・・・・」
せめてヒルデが年下だったらなあ・・・・そう思ったが言わなかった。
「この国を出るわけじゃねえ。分かってくれヒルデ。」
これ以上この場に留まってもどうにもならんと判断した俺は、引き留めの声を無視し、この場を去った。
いいんだこれで。
別に今生の別れという訳じゃないしな。
翌日俺はセシーリアちゃんと共に王都を出た。
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