第2話 逃避行

 俺が15歳の時、祖国が魔物によって滅んでしまった。


 俺は周囲の人間と一緒に隣国であるモッテンセン王国へ向かった。

 多分1万人以上の人数で逃げたが、最終的にモッテンセン王国に辿り着けたのは1000人を切っていたらしい。

 俺は何とか、若かったから体力があったのもあって生き延びたが、家族は皆たぶん死んだ。そもそも父親は祖国で魔物に襲われ死に、母は姉と妹と一緒に逃げていたが魔物の襲撃に遭いその場にいた全員が食い殺されたと聞いた。

 残った兄と2人、逃げた。

 兄とは途中ではぐれた。

 探したが行方は分からなかった。

 一緒に逃げ延びたおじさんは、

「生き残りたかったら探すな。」

 と言った。


「いいか坊主、もし生きていたら逃げ延びた先で合流できるだろう。だが死んでいたら?周りも誰も彼も自分の身一つ守るので精いっぱいだ。坊主もいくら兄とはいえ、人を探す余裕はないはずだし、はぐれたのは兄だろう?もし生きていれば向こうから見つけてくれるはずだ。」


 このおじさんは息子を亡くしたらしい。

 目の前で飛翔する魔物にさらわれたそうだ。


 そして何を思ったのか、俺を息子代わりに気をかけてくれたようだ。


 きっとそうでもしないと精神が持たなかったんだろう。


 まあこのおじさんの陰で俺は生き延びた。


 2年彷徨い俺が17歳の時、やっとモッテンセン王国に到着した。


 1000人もの難民を受け入れてくれたこの王国には感謝だが、だからと言ってこの国での暮らしは楽ではなかった。


 この国に辿り着いてから1年、俺が18になった時、生きるため冒険者になった。


 俺は戦闘なんかまっぴら、元々父が鍛冶職人だった事もあり、ゆくゆくは俺も鍛冶職人になって歴史に名を連ねる剣を打つのが夢だった。


 だがモッテンセン王国での鍛冶職人の地位は限りなく低く、かつ縁故がなければ弟子入りすらままならないというありさま。

 難民の俺を弟子にしてくれるような親方はいなかった。

 だが気まぐれで月に2度、短時間なら工房での見学をしてもいいという親方がいたので、俺はその親方の工房で作業を見させてもらった。

 だが、親方いわく、

「この国の鍛冶職人の地位は低いうえに、一振りの剣を自らの考えで打つ事も厳しい。素材は基本依頼者の持ち込みだ。なので打つ武具はその依頼者次第だ。だからてめえは冒険者になって自ら素材を確保するべきだ。そうしないといつまでたっても俺のように人の顔色うかがって打ちたくもねえ武器をいつまでも打たねえといけない事になる。てめえの希望はそんな武器を打つのじゃねえだろう!」


 俺はこの親方に感謝した。


 因みに俺の世話を焼いてくれたおじさんとは二度と会う事がなかった。

 どこか違う都市に向かったのか、死んだのかもわからない。

 それに俺の家族とも合流する事はなかった。

 兄は結局どうなったか分からなかった。たぶん死んだのだろ。


 そして母と姉と妹。

 もしかしたら誰か生き残っているかもとも思ったが、やはり全員死んだようだ。


 俺は天涯孤独になった。

 そして周りに俺の事を気にかけてくれるようなお人よしは・・・・いなかった。


 そして18歳になった俺は、冒険者になった。

 

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