第27話 聖魔法

 俺がどうしようか悩んでいると、兄貴がやってきた。無論俺の兄貴ではない。目の前の女の兄貴だ。そして今の所この兄貴が俺の義兄になる予定は・・・・ない。


「おお!誰かと思ったらケネトじゃねえか!何でこんな所に?」


「薬草採取だよ!最近は人が多くなったからこの辺りで採ってたんだ!それよりなんだよあれ!」


「みりゃあ分かるだろサイクロプスだよ!」


「なあヘンリク!あんたかなりの実力あるんだろ!何やってくれてんだよ!」


「そう言うな。あれは俺らのせいじゃねえ。むしろ俺らは被害者だ!」


「それよりこいつどうしたらいい?」


「おいヒルデガルド!!聞こえるか!」


 意識がない。駄目だなこりゃあ。


「くそ!ケネト、お前回復魔法使えるか?」


「聖魔法なら使えるがどうする?」


「聖魔法か・・・・俺は回復系取ってねえし、ポーションも使い切った。ヒルデなら回復魔法が使えるが、当の本人がこれじゃあな。」


「知っていると思うが聖魔法の回復って、患部に直接手を触れねえと回復できん。こいつはあんたの妹だろうがどうする?服を脱がし肌を晒さないと俺には無理だ。」


「脱がそう!」


 即決かよ!


「いいのか?」


「いい。こいつもそれでいいと言うだろう。こいつはケネトを気に入ってるからな。むしろご褒美と言うだろう。」


「あとで未婚の女の裸を見たと言って責めねえよな?」


「そんな事は言わねえ。まあお前次第じゃこいつを娶るってのもありだが?」


「何寝言言ってんだ?それよりこの装備どうすんだ?」


 後で冷静になって考えたら凄い事言われてるんだが、この時はそれどころじゃなかったから気にしてなかった。


 流石兄貴だ。

 死に瀕している妹を目の前にして、一切のためらいがない。


「こう言っちゃあなんだがもう長くはもたん!早くやってくれ!」


 俺は目の前で裸になった超絶美少女をガン見してしまった。

 そうは言っても体中の骨が怪しい。

 腕と足は明後日の方向を向いているし、肋骨は2本飛び出している。

 俺血を見るの駄目なんだがなあ。


「肋骨を中に入れる。あんたは脚と手を何とかしてくれ。」

 俺はヘンリクにそう言って早速治療を開始する。

 そうは言っても骨を何とかしないと、回復したはいいが後で大変な事になる。


 そして気持ち悪いが目の前の女ははっきりと死相が出ている。

 このままでは数分で死に至るだろう。


 一応折れた肋骨は体の中に押し戻したので、聖魔法を発動させる。

 肋骨付近と胸を中心に。

 女性の胸を触るという行為に抵抗はあったが、生きるか死ぬかの瀬戸際だ。それに兄貴公認だから問題ないよな?

 そして血まみれだから性的にとかいう余裕はない。

 むしろこんな状態で興奮する方がおかしい。


 ヘンリクは手足を元通りにしてくれたのか、立ち上がったようだ。

 俺は集中するのでいちいち気にしていられない。


 身体の血は止まったはず。

 手足は後回しだ。

 脱がした服を体にかけ、今度は背中に取り掛かる。

 今度は抱きかかえるように。

 俺の力じゃ残念ながら脱力し、手足の骨の折れた女をひっくり返すのは難しい。そもそもそんな事をしたらまた手足を元に戻す必要がある。


 背中も終わった。次は手足だ。

 再び寝かせ、手足に取り掛かる。


 それが終われば次は顔だ。顔と頭。

 万が一強打していれば問題があるかもしれないが、俺の治療は深刻なダメージには対応できない。


 幸い目も潰れていないようだ。

 手足の欠損や潰れた目は回復魔法のレベル10では無理。最低レベル12が必要らしい。

 そんなに金を使って回復魔法をレベル12にする奴はそうそういないから実際厳しい。


 俺は何とか回復させた。だがヒルデガルトと言う女は血を失いすぎた。

 何とかなるか?無理だ。

 一応薬草を突っ込んでおくか。


 俺は薬草を女の口に突っ込もうとしたが、意識がないから噛んだりできない。

 仕方ない。俺は薬草を咀嚼し、ヒルデガルトの口の中に押し込んだ。

 今更女の口をどうこう言うつもりはない。

 セシーリアちゃんのキスを何度も貰っているからな。


 そして何とか飲み込んでくれたようだ。

 もしかして内臓の回復が間に合ってないかもしれねえからな。

 こんな事ならポーションを作っておけばよかったぜ!


 今度から常備しておく必要があるな。

 幸い空間魔法も取得したから、そのうち・・・・収納魔法とでもいうのか?そう言った魔法も使えるというからな。


 だがここで俺の魔力は枯渇したようだ。

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