第26話 最近草原で人をよく見かけるようになった

 ここ最近薬草採取をしていると今まで殆ど人を見かけなかったが、見かけるようになった。


 どうやら薬草採取をしているようだ。


 俺は既に採取スキルがマックス(通常のレベルで:金を払えばレベル10超えが可能)だからなるべく人を避け、採取が被らないようにいつもより森により近い場所へ移動していく。


 こうした変化が徐々に見受けられ、ついには魔物の姿を見かけるまでになった。


 人を避けて移動しながら採取をしていたら、いつの間にか森の近くに来てしまったようだ。


 そうは言っても一応まだ俺の居るあたりは安全地帯と聞いている。

 では何故魔物を見かけるのか?

 恐らく何処かの冒険者が森で魔物と戦って、魔物が逃げ出したのか冒険者を追ってこの辺りまでやってきたのか、何が理由で森から出てしまったのかは実際分からないが、恐らくそう言った魔物だろう。


 今の所冒険者になってから魔物と戦った事は無いが、祖国から落ち延びている時は何度も魔物と戦い殺してる。

 だから今更殺傷は・・・・というのはない。


 むしろ戦って素材や魔石を得た方が良いと思うのだが、いかんせんおっちゃんに止められている。

 できる限り避けろというのだろう。

 だが俺もレベルは50を超えた。

 そもそも逃げている途中、俺は弱かった。

 だが戦って勝ち得た経験を生かせば十分戦えるはずだ。

 しかしながらそうは言ってもあの時は周囲に俺より遥かに体格に恵まれている大人が多かったからな。


 そして本日、やはり人が多く来ている。

 ここ数ヶ月の俺の仕事場ともいうべき薬草の多く生えている、採取ポイントと俺が勝手に思っている場所の一つが既に手の付けられない状態になっている。


 一ヶ月ほどかけてローテーションをしていたのだが、もう駄目だな。

 そして次の目的のポイントも・・・・


 これは本格的に採取の依頼(常時)を見直さないといけないな。

 そして仕方なしに、よりリスクのある森の方へと向かう事になるのだが・・・・


 今日もそうした事はあってもいつもの如く採取で一日が終わると思っていたのだが、今日はいつもより森の近くに来てしまった。

 この辺りはまだ誰も手を付けていないのか、薬草が沢山生えている。

 ずいぶん移動に時間を取られたから、これはありがたい。


 俺はこの時周囲の警戒をおろそかにしてしまっていた。

 採取しても採取した傍から薬草が目に入ってくるのだ。

 そのせいもあっていつもより夢中になってしまった。


 そして気が付いた時には既に時遅し、周囲が騒がしい。

 俺は本能でこれは危険だ!と感じたが、気が付くのが遅すぎた。

 森を見ると何人もの冒険者が逃げてきているのが目に付いた。

 しかもそのうちの数人は明らかに大怪我を負っている。


 どうするか一瞬の判断を誤った俺は、その場に固まってしまった。

 何せほんの数メートル先に、あり得ないほどの巨体の魔物が棍棒を振り回し、次々に冒険者が吹き飛んでいるのだ。

 そしてその顔。

 ひとつしかない目。


【サイクロプス】



 俺は一応この周囲に出現する魔物の事は聞いていたが、せいぜいゴブリンやワーウルフ程度。

 森に不用意に近づかなければ、万が一戦う事になっても発見さえ遅れなければ何とかなる程度の魔物と聞いていた。


 そしてこのサイクロプスだが、森の奥深くに生息しているとは聞いていた。

 他にはトロルやトレントなんかも生息している。


 だがあいつらは森から出てこないという話だった。

 それが何故森に近いとはいえここはまだ草原。

 何でこんな所に現れるんだ?


 すると一人の冒険者がサイクロプスにやられ、こっちに飛ばされてきた。

 うわ!

 避けられない!

 俺は咄嗟に水魔法で俺と飛んでくる冒険者の間に障壁とまで言わないが、衝撃を吸収できればと思い壁みたいなのを作った。


 当然その冒険者はその水の壁に突っ込んできて、俺は少しだけ粘度のある壁にしたのでそれで衝撃を吸収したかどうかは分からないが、俺はその冒険者とぶつかってしまった。


 俺も吹き飛び・・・・一応その冒険者を受け止める事ができたので、そのまま流れに逆らわず地面に転がる。


 ぐう!

 勢いを殺したとはいえ、10メートル以上を飛ばされた人間を受け止めたんだ。


 こっちも無事では済まない。

 案の定左足が変な方向に曲がっている。

 俺は急ぎ痛み止めの効果のある薬草を口に放り込んだ。

 本当はポーションなり薬草を薬にしてしまった方がいいのだが、時間がない。


 痛いがそのまま左足を元の状態と思われる方向に戻し、回復魔法・・・・覚えたてでまだいまいち効果が薄いが、足に唱えつつ・・・・因みに回復魔法と言っても聖属性で専門の回復魔法ではないが、怪我に有効なのだ。

 但し直接患部に手を触れないと効果がない。何せ聖魔法の本来の使い方はアンデットなどに対してなのだから仕方がない。

 こんな事なら先に回復魔法を学んどくべきだったぜ!

 そして薬草をまた口にした。

 本当は傷薬、塗るやつなんだろうがポーションにもなるので口に入れても問題はないらしい。


 怪我が治っていく。そして痛みの消えた身体を起こすと俺は俺にぶつかった冒険者を見た。女だ。それも小柄な。


 見ると口から血を吐き出している。

 内臓か?こんなの俺に治せるのか?


 周囲を見ると複数の冒険者が何とか魔物を押し留めて居る。


 俺は咄嗟にどうするか悩んだ。

 俺はあくまで薬草採取に来ている。

 だから今目の前の冒険者を見捨てて逃げても誰も文句は言わないだろう。

 むしろ安全地帯と呼ばれる場所に魔物を引き連れてきてしまったあいつらに非難の矛先が向くはずだ。


 そして俺がもう一つ迷ってしまったのが、目の前の女を見た事があったからだ。

 何処で見た?そうだ、俺がまだここにきて1ヶ月経っていなかった時に炊き出しにやってきた連中だ。


 確かヘンリク・・・・いやそれはこいつの連れの名だ。

 何だっけ?

 そうだ、ヒルデガルドだ!思い出したぞ!

 兄貴は気さくな奴だったが、こいつはよくわからなかった。

 今思うとあの受付のセシーリアちゃんもそうだが、こいつも美少女だ。

 しかもセシーリアちゃんと違いこいつは背が低い。

 そして2人ともほっそりしていて胸は・・・・本人の名誉のため、伏せておこう・・・・ただ俺的にはドストライク、とだけ言っておこう。


 は!そんな女が全身脂汗をかいているのか、苦悶の表情と共に汗だらけ。しかも健康的なのではない。

 しかし俺は迷った。

 俺はまだ直接肌に触れないと回復魔法を使えない。

 正確には聖魔法なので、回復魔法と違い対象者の本来備わっている身体を回復させようとする力を高め、通常の数百倍の速さで超回復させるというものだ。

 どうやらこれがあるせいで性魔法と揶揄されるのだが、これはまあ仕方がないのか?

 しかし回復できるだけましだろう?

 前衛の冒険者はポイントのほぼ全てを戦闘関連に割り振る事が多いので、簡単な回復魔法すら手に入れないやつも多いんだ。


 だから俺は対象者の装備を取らないと、肌を露出させないといけないが、目の前にいるのは若い女だ。しかも美女だ。いや美少女だ。

 どうする?

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