木の心を知るもの

旅人が森で生まれた日

それは暖かい日差しが降り注ぎ、緑を透過して地面に溶け込む柔らかさを感じた日


森の木々たちは、赤子の旅人を優しく包み込み、動物たちは赤子の誕生に不思議な高揚感を感じた。


生命の誕生は、どんなものでも愛に満ちている。

そう信じているモノからすれば、そこに愛情を注ぐのは必然である。


しかし、弱肉強食の世に生きるモノたちは、生命の誕生を己が生きるための餌としか考えない。

そうした中で、赤子の旅人が纏う空気は、強食の獣さえにも穏やかな一筋の愛を感じさせたのである。


餌は餌としてではなく、猛獣の心にも入り込める特殊な才をもったモノとして生まれた。


旅人は、森で育ち、そこに住む動植物達の気持ちを知ることで、自信の心を形成していった。



旅人が青年と呼ばれる歳を迎える頃


「君たちはこの森に生まれて幸せなんだろうね。私もこの森で生まれることができたおかげで、凄く幸せだ。」


旅人は、木々や動物たちが集まるなか、幸せを語らいながらゆっくりと歩みを進める。


「だけど、世界に存在する全ての森が、温かさを感じる感情で満たされている訳ではないんだろうね。力の強いものが、弱いものから搾取し、恨まれる。理由もなく傷つけ合い、痛みに溢れて悲しみあう。そう言った感情で形成された森もあるのだろう。」


そう話す旅人の顔は、美しさを纏いつつも悲しみに溢れている。


周りで聞いていたもの達も、旅人の心に触れ同じように悲しみを共有する。


「私には世界を変える力はない。だけど、自分が生まれたこの世界を知ることはできる。暖かい日差しが降り注ぐ森の気持ちだけではなく、枯れた大地を通り過ぎる北風の気持ちも知った上で、この世界を愛したい。」


旅人がそういうと、ゆったりとした空気の流れは心なしか早くなり、旅人の歩調も軽快になっていくようであった。

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