第23話 少女の恋……式守有希の場合⑤

 そうして慌ただしく時間が過ぎ、迎えた文化祭最終日。


 これまでのスケジュールは滞りなく進み、成果は上々だった。


 二日目はステージ発表がメインで、すでに吹奏楽部の演奏会、バンド演奏、お笑いライブ等々が消化され、残るは午後に開催される演劇部・映像研究部の発表と、生徒会主催の「男女逆転★ミスターミセスコンクール」のみとなっている。


 文化祭実行委員と協力しながら運営の仕事を上手く分担し、各々のクラス、部活の出し物、もしくは休憩を取る。


 生徒会の仕事があるから、文化祭をあまり楽しめなかった。


 なんて思いは絶対にしてほしくなかったので、役員達には融通の利くようなシフトを組んでおいた。


 その分、私の負担は大きくなったけれど、そんな事はどうでも良かった。


 これが終わってしまうと同時に、私の生徒会長としての役目は完了してしまう。


 そう思うと、忙しささえ愛おしく思えた。


 こんな気持ちになるなんて、思ってもみなかった。


 辛い事や悲しい事が沢山あったから、もっとこう、晴れ晴れとした気持ちで終わりを迎えられると、そう思っていたのに。


 今、私の胸の中を占めるのは、ほんの少しの達成感と、終わってしまう事への寂しさだけだった。


 きっと、自分が思っている以上に、私はこの仕事が、生徒会長である自分が好きになっていたのだろう。


 だからこそ、何としてでも有終の美を飾らなければならなかった。


 こんな私についてきてくれた皆のためにも、自分自身のためにも。


 ここまでは、目立ったトラブルもなく進行している。


 だから、頼むから、このまま何も起こらずに……


 と、そんなフラグめいた事を願うと、決まって良からぬ事が起きるわけで、焦った様子の役員が私の下に走ってきた。




「参加予定の二組が行方不明?」




 その報せは、やっぱりトラブルだったみたいで。


 どうやら、生徒会企画に参加する予定だった二組の生徒が、リハーサルの時間になっても姿を現さなかったらしい。


 姿が見えないだけならまだしも、連絡もつかない状態らしく、担当の役員が冷や汗をかきながら私に助けを求めにきたのだ。


 全体の参加が十に対し、二組の欠員。


 何とかなるにはなるのだろうけれど、それでも、完璧な状態での企画の成功を目指す私にとって、その報せは大きな不安材料になった。


 それに、詳しく話を聞くと、どうやらその二組にはサッカー部のエースとチアリーディング部の期待の新人ちゃんが含まれているらしい。


 生徒に優劣なんてつけたくないけれど、それでも、人目を集める生徒が突然欠場なんて事態になってしまったら、最悪、企画全体が白けてしまう可能性だってなくはない。


 一刻も早く、手を打っておきたかった。

 

 けど、人手を使ってしまったら騒ぎになりかねないし……




「分かった。私が探してくるから、皆は準備を進めておいて」




 そう言って、私は席を立った。


 大丈夫、まだ時間はある。


 一人で探したって、きっと見つかるはずだろう。


 そう自分に言い聞かせて、私は四人の生徒を探し始めた。

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