届け!

俺達の出番になり、ステージに登壇する。


ライブは、いつも俺のMCから始まる。


MCって言っても、軽くバンドの紹介をする程度だ。


「こんばんは。俺達は、"ホワイトイレブン"というバンドです。4人しかいないのに、何でイレブン?って思いましたよね。俺達4人とも、"ブラックナイン"っていうバンドの大ファンなんです。彼等にちなんで、俺達の好きな色とラッキーナンバーでバンド名を決めました。超単純っすよね。バンド名はパクりっぽいっすけど、曲はオリジナルでやらせて貰ってます。今日はよろしくおなしゃーっす!!」


俺が持ち前のテンションで一気に喋りきると、拍手と歓声が飛んだ。


クジが昔、人気バンドのメンバーだった事もあって、俺達のバンドはそこそこの人気と知名度を誇っていた。(まぁクジのファンが多いんだけど。)


今日は、いつもより大きいライブハウスという事もあって、前座で1曲だけしかやれないけど、精一杯楽しみたい。


俺は客席を見回して、葵がいるのを確認した。


俺の正面の真ん中辺りの位置にいた。


葵の為にも、最高の演奏をしたい。


「じゃあ、早速やります!」


俺の合図と同時に、クジがドラムのステッキをカッカッと鳴らし、演奏が始まった。


ノリの良いロックテイストの曲。


客席もしっかりノっていた。


今日の観客、ノリが良くて安心した。


ふと見ると、すげーノリノリの店長が見えて、笑いそうになった。


でも、葵の方を見ると、動かずにじっと俺の方を見ていた。


あれ、もしかして楽しくないのかな。


少し不安になりつつも、精一杯声を張り上げ、1曲目を唄い切った。


客席とスポットライトの熱気で汗だくだった。


演奏が終わると、また拍手と歓声が湧き上がり、店長が「いいぞー!」なんて言っているのが聞こえた。


「ありがとうございました!もしよければ次回の…」と、次回のライブ告知をしようとした時だった。



「アンコール!アンコール!」


という声が聞こえた。


驚いて、声がする方を見た。


葵だった。


「アンコール!アンコール!」と葵は、声を張り上げて、俺の方を見て、顔を真っ赤にして、叫び続けていた。


観客はザワザワし始めて、「…前座だからアンコールとかないんじゃね…?」と誰かが言った。


それでも葵は、コールをやめなかった。


初めて一緒にライブに行った時、


「アンコールって何ですか?」と葵に聞かれた。


「もっと歌を聴きたいときに言うと演奏してくれる魔法の言葉だよ。」って俺はその時、応えた。


それを思い出してハッとした。


大きな声を出すのが苦手な葵が、ただ真っ直ぐに俺の方を見て、一生懸命声を張り上げている。


大粒の涙がぶわぁっと溢れては、ボタボタとこぼれ落ちる。


声にならない。


「アンコール!…ゴホッ、!…アンコール…ッ!」


声を張り上げる事に慣れていない葵は、咳き込みながらもなお、叫び続けていた。


俺は、いてもたってもいられず、マイクを両手で握りしめた。


「葵!好きだ!!」


俺のでかい声がマイクを通して、会場中、いや外にも聞こえたかもしれない。


今度は、葵が驚いて、俺を見つめる。


バンドメンバーも観客も、戸惑った様子で、俺と葵を交互に見ながら行く末を見守っている。


俺はもう、ギャラリーがいようが、そんな事お構い無しだった。


葵に伝えたかった。


大好きな葵にちゃんと伝えたかった。


「葵、俺さ、忘れてくれっていったけど、ごめん、俺の方が忘れられない。いつもいつも葵の事ばっかり考えてる。好きだ。好きでいさせて欲しい。そばにいさせて欲しい。いつも…いつも笑っていてほしい。葵の笑顔、俺

、本当に好きなんだ。今日も明日もあさっても!ずっとずっと!一緒に…一緒に…ッ、笑っていだい…!!」


最後の方は涙声になってしまった。


俺の声を聞いた葵は、帽子のつばで顔を隠した。


小刻みに肩が震えているのが見えた。


泣いているのかもしれない。


すぐに駆け寄りたかった。


すると、「ちょっとどいてくれ!」という声がした。


店長が人混みを掻き分けて、葵の方へ行くと、葵に「よく頑張ったな」と声をかけた。


その様子に、俺はまた目頭が熱くなる。


そんな俺に店長は、でかい声で言った。


「シメサク!もう一曲やれ!」


すると、クジが応えるようにドラムをドンドンと鳴らしながら言った。


「シメサク、新曲やんぞ!」


「え、でも…。」


「応えてやるんだろ。後のことなんてどうとでもなるさ。歌詞、途中でもいいからさ。」


俺は、涙を拭い、「お前、最高。」とクジに言った。


他のメンバーもノリ良くやる気になってくれていた。


俺は、メンバーに「歌詞は出来てる。」と親指を立てた。


そして、改めて客席に向き直った。


「もう一曲やります!新しい曲っす!曲名は、"ひまわり"!!」


数回、音合わせした程度の新曲。


歌詞付きでやるのはぶっつけ本番。


そんなの構わない。


全力でやるだけ。


葵に伝わればオールオッケー。


そんで、ノーミスだったならベリーハッピー。


俺は、ミディアムテンポの曲調に歌声をのせた。


『何でも出来てしまう君。

何でも抱え込んでしまう君。

君はすぐ"大丈夫"って言うよね。

君の大丈夫が一番大丈夫じゃない。

君にとって僕が必要なんじゃない。

僕にとって君が必要なんだよ。

伝わっているといいな。

時々、朧げで儚げで、

でも、向日葵のように笑う。

そんな君が

僕にとっての全てだよ。』


俺は、葵の方を見て笑顔で歌った。


歌詞、葵のことを思って書いたよ。


届け。葵の心に。

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