嗚呼、言っちまった

葵と俺は、同じ時間にバイトが終わったので、駅まで一緒に歩いて帰った。


もはや並んで歩くだけで、ドキドキしてしまっている。


「サクって歩くの早いよね。」


葵が言った。


「そ、そうか?まぁ歩幅が違うしな。」


「えー、まるで僕の足が短いみたいだけど。」


「そ、そ、そんなこと言ってねーって。」


もうその唇尖らせるのやめてくれ。


天然無自覚め。


こっちは、可愛すぎてどうにかなりそうなんだよ。


そんな事を考えていると、葵が急に立ち止まった。


「…葵…?」


不思議に思って、葵の方を見ると、何故か泣き出しそうな顔をしていて驚いた。


「サク、僕のこと嫌いなの…?」


「な、なんでだよ!」


「だって、ずっと今日おかしいもん。いつもサクから話しかけてくれるのに、全然話しかけてくれないし。目も合わせてくれない。いつもと別人みたい。」


いよいよ泣き顔になり始めた葵を見て、俺は言葉が見つからず情けなくオロオロとした。


「僕、ゲイだし。体売ったりしてたし。改めて考えたら気持ち悪いとか思ったんでしょ?」


この葵の一言に、俺はまた考えるより先に口が動いた。


「そんなわけないだろ!逆だよ!何をしていても頭から離れないんだよ、葵の事が!」


嗚呼、言っちまった。


でも、このまま心に仕舞い続けるなんて出来なかったんだ。


「好きなんだ。葵のことが。男同士とかそんなの関係ない。好きになっちゃったんだ。今日は変に意識しちゃって話できなくて…。しかも、俺自分に自信がないからさ。いい歳してフリーターだし、バンドも中途半端に何となく続けてるだけだし。葵みたいな、しっかりした子に俺みたいな何も無い人間がおこがましいと思う。でも、自分の気持ち誤魔化そうとしてもうまくいかなくて。ずーっと葵の事ばかり考えてた。」


ダムが決壊したように、心を渦巻いていた気持ちが言葉となって堰を切って溢れ出した。


クリクリとした大きな目を更に見開いて驚く葵を見て、少し冷静になった俺は、


「…ごめんな、忘れてくれ。バイトお疲れ様。」


と言って、俺は葵を置いて駆け出してしまった。


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