葵の想い

葵は、涙を流す俺を見て目を丸くして、小さな声で言った。


「サク、ごめんね。僕少しおかしかった。本当にごめん。」


「いや、葵が謝る事なんてひとつもないよ。俺の方こそ、いい年して怒鳴ったり泣いたりして、情緒不安定過ぎだよな。マジでごめん。」


お互い少し気持ちが落ち着いてきたみたいだ。


「サク、僕、すごく怖かったし恥ずかしかった。サクが助けてくれなかったらどうなっていたか分からない。自分の考えがすごく甘かったって思う。反省してる。」


葵の話に、俺は静かに耳を傾ける。


「でも、家の為にはこれしかないと思うんだ。僕は、お母さんもおばあちゃんも大好き。お母さん、そんなに体が強くないの。よく風邪引くし。それなのに…、風邪ひいてるのに、咳してるのに、仕事に行こうとするんだよ?僕そんなの見てられない、見てられないんだよ。本当は、お母さんが働かなくて済むようにしたいんだ。ねぇ、サク。お母さん、体が強くないんだよ…!」


"体が強くない"と2回言った葵の声は震えていて、目には涙を浮かべていた。


そんな葵の顔が滲んで見えたから、多分俺も目に涙を溜めている。


「あのさ、葵。葵がお母さんやおばあちゃんを大切に思うのと同じように、お母さんやおばあちゃんだって葵を大切に思っているじゃないかな。同じように葵の事が大好きなんだよ。葵が体を売ってるなんて知ったらすっげぇ悲しむよ。」


俺の言葉に、葵はハッとした表情を浮かべた。


「でも、僕どうしたらいいかわからない。」


葵は、堪えきれず涙を流した。


静かな部屋に、俺達の鼻をすする音だけが響いた。


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