もっと大事にしてよ。

Side 朔也


「結局、嫌だって言ってるのに3回もイかされた。やっと拘束を外されて、お金を受け取って、ようやく帰れると思ったら、一緒に泊まろうって言われて…。凄くしつこかったし、怖かったから、隙をついて逃げたんです。追いつかれて腕を掴まれたところにサクが来てくれて…。」


葵は、そこまで話すと、俯いた。


「ごめんな、葵。」


「何でサクが謝るの?」


「いや、こんな話するの嫌だっただろ。それに、もっと早くに助けてあげられれば…」


俺は、正直、頭の中が真っ白だった。


葵が体を売っているという事実だけでも受け止めきれないのに、そんな危険な目に合っているのに、助ける事も出来なかった事が悔しくて仕方なかった。


「ううん、サクは助けてくれたよ。あの男を追っ払ってくれた。」


「でも…ッ、俺がもっと早くに…」


「それは無理だよ。ホテルの部屋にいたんだもん。それに、これは自業自得。全部、僕がいけないんだ。僕が…」


そう言うと、葵は膝を抱えて丸くなった。


「葵、もう体を売るなんてやめなよ。」


俺の一言に葵はビクッと小さく体を震わせる。


「…やめません。お金が必要なんです。」


「ダメだって言ってるだろ!」


俺は、自分でも驚く程、大きな声を出した。


なんでだろう、俺は、もの凄く苛立っていた。


でも、何に苛立っているのか分からなかった。


葵を助けられなかった自分に?


敬語混じりに話す葵に?


葵の体を弄ぶ男達に?


もう感情がめちゃくちゃで意味がわからない。


「…なんで…サクにそんな風に命令されないといけないんですか…」


葵は、俺を睨みつけるような目をした。


葵自身も苛立っているのだと思った。


「命令なんかしてねーよ。」


「命令口調だったじゃないですか。」


「敬語やめろよ!」


俺はまた怒鳴ってしまった。


もう言葉が勝手に口をついて出てしまう。


こんなつもりじゃないのに。


葵を傷付けるつもりなんかじゃないのに。


葵は、暫く魂が抜けたように呆然としていたけど、そのままゆらゆらと俺の方に近付いてきた。


そして、何をするのかと思ったら、いきなり俺にキスをした。


「…ッ、あお…い?」


「サクだって、僕と寝たいんでしょ?僕にエッチな事をしたいんでしょ?」


この瞬間、俺の中の何かが爆発した。


「葵!もっと自分を大事にしろよ!」


俺は葵の細い両肩を掴んで言った。


「こんな小さな体で…なんで全てを抱え込むんだよ。こんなに心をボロボロにされて、なんでそれでもまだ頑張ろうとするんだよ。耐えられないよ。そんな葵を見るのが…耐えられない…ッ、く」


涙が勝手に零れるなんて初めてだった。


言葉にしてわかった。


俺は、怒りで苛立っていたんじゃない。


葵が自分の事を大事にしない事が悲しくて、


狂いそうなほど葵を心配する俺の気持ちが、葵に1ミリも伝わっていない事が歯痒くて、


葵を想うと、こんなにも心が張り裂けそうで、


切なくて、


こんな気持ちが初めてで訳が分からなくなっていた。

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