葵の秘密

この間と同様に終電は既に無くなっており、俺はまた葵を家に泊めることにした。


家に着くまで葵は無言で、ずっとスマホをいじっていた。


チラッと見えたけど、親御さんに連絡しているみたいだった。


心配させない言い方を模索しながらLINEの文章を作成している様子だった。


コンビニを通ったけど、葵は、「カフェラテを買いたい」と言わなかった。


家に着き、部屋に入ると、俺はとりあえず麦茶をコップに注いだ。


「カフェラテじゃなくて悪いけど。」


「…ありがとう…」


葵は、力なくそれを受け取った。


色々聞きたかったが何から切り出せばいいのかわからず、風が窓を叩く音が聞こえるほど、部屋は静まり返っていた。


「俺、風邪引いててさ。葵は、風邪引かなかった?」


当たり障りのない質問をした。


「あ、それでコンビニに居なかったんだ…」


「来たのか?」


「はい。」


「来てくれたのに、ごめん。」


「ううん、いつもみたいにカフェラテ買いに行っただけだし…。」


また沈黙が流れ、耐えきれなくなった俺は思い切って聞いてみた。


「葵、何があったのか話してくれる?さっきの男、誰?」


すると葵は、俺の顔をじっと見た。


そして、ひとつ大きく息を吐くと話を始めた。


「僕、ゲイなんだ。今日みたいな男の人を相手に体を売ってる。SNSとか掲示板を使って募集して、そういう事をして、お金を貰っているんです。」


あまりに衝撃的な話に、俺は言葉を見つけられなかった。


「…どうして…そんな事を?」


ようやく絞り出した言葉だった。


妙に喉が渇いて声が掠れた気がした。


「うちの家庭の事情は、この間話しましたよね。お母さんは僕の学費とおばあちゃんの通院やお薬代の為に朝から晩まで働いてて。家計苦しいから、力になりたくて…。」


無意識なのか分からないが、葵のしゃべり方は敬語混じりで、なんだか距離を感じてしまった。


「でも…だからって、体を売るなんて…。さっきも男の人に無理矢理、腕掴まれてたじゃん…。」


「あれは……」


葵は少し戸惑いつつ、ぽつぽつと何があったのかを話し始めた。

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