君のことばかり考えている。

Side 朔也


雨の中を駆け回ったせいで、言わずもがな風邪を引いた。


バイトは2日間お休みを頂いて、寝込んでいた。


店長に謝ったら、「復活したら何か奢れよ」と言われた。


2日間寝込んだお陰でなんとか体調は回復した。


葵は、風邪引いてねーかな。


それがめちゃくちゃ気がかりだった。


でも、連絡先聞くのをすっかり忘れていたから、連絡が出来ない。


「あーマジLINEくらい交換しとけよな、俺。」


俺は声に出して独りごちた。


現在、深夜0時を少し過ぎたあたり。


体調は良くなったけど、ずーっと寝ていたせいで寝られない。


散歩がてら、コンビニでも行く事にした。


俺の家の近くにはコンビニが2つある。


ひとつは、駅の近くのコンビニ。


もう1つは、それより少し離れているコンビニ。


後者の方が俺のバイト先だ。


なんとなく私用でコンビニに行く時は、バイト先じゃない方に行っている。そっちの方が近いし。


という事で、俺はダル着のまま外に出て、コンビニへ向かった。


歩きながら、葵がまた駅前でうずくまってたりしないよな、なんて考えていた。


熱に浮かされている間も、なぜか葵の事ばかり考えていた。


なんでこんなに考えてしまうのか自分でも分からなくて、熱のせいにして自分を誤魔化していたけど、熱が下がった今も葵の事を考えている。


「会いたいな…」


俺は、駅近くの道を歩きながら1人小さく呟いた。


明日、バイト先のコンビニにまたカフェラテと肉まん買いに来てくれるかな。


そんな事を考えながらコンビニで買い物を済ませ、店外に出る。


少し歩くと、突然、背後から声がした。


「離して下さい…!」


人影の少ない深夜の街に響く、少し高めの少年らしい声。


すぐに葵の声だと分かった。


俺は、すぐさま声のする方を見た。


葵の腕を掴んだ少し太った年配の見知らぬ男と、それを必死に引き剥がそうとしている葵が見えた。


「いいだろ?幾らでも出すから。金が欲しいんだろ?」


そう言って男は葵の細い手を強く掴んだまま無理矢理引き寄せようとしていた。


「や…、やだ…!もう嫌です…!」


葵の震えた声が聴こえた時には、俺はもう走り出していた。


「葵!」


自分でも驚く程の大声に、2人は同時に俺の方を見た。


男が怯んでいるうちに、葵の肩を掴んで、引き剥がした。


「…サク…?」


葵は、驚いた顔をしていたけど、次に泣き出しそうな顔をした。


その顔を見て、俺の怒りは頂点に達した。


葵は笑顔が素敵なんだ。


泣きそうな顔をさせるなんて、許せない。


「な、なんなんだ、いきなり何なんだよ!」


男は狼狽えた様子で言った。


「あんたこそなんだ!こんな時間に未成年の腕掴んで、何してんだよ!嫌がってんだろ!事情は知らないけど、明らかにおかしいだろ。駅前に交番あるから一緒に来てもらうからな!」


俺は怒りに任せて、声を張り上げた。


曲がりなりにもバンドでボーカルをやっている俺の声は大きく、相手を威嚇するには効果的だった様だ。


また、"交番"というキーワードにヤバいと思ったらしく、男は、何かを言い返すことも無く、ただ恨めしそうな顔をして逃げていった。


「葵、大丈夫か?」


「…サク…ありがとう…」


俺は、葵を抱きしめた。


葵は俺の腕の中で華奢な肩を震わせていた。

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