好きってなんだ?

「KPー!」


いつもの大衆居酒屋で鯨岡(くじらおか)とグラスを交し、ビールを注ぎ込んだ。


「あーうめぇ…!」


俺たちはほぼ同時に、声高に言った。


鯨岡は、同じバンドのギタリスト。


バンドメンバーの中でも鯨岡(俺はクジって呼んでる)とは仲が良く、家も近いので、こうやって良く飲みに行く。


年齢は27歳で、俺よりも3つ年上だけど、すっかりタメ口で話すようになっていた。


「すいませーん!ビールもう一杯!」


「クジ、ペース早くね?」


「そうかな?うーん、そうかもしれないな。」


「何かあった?」


「まぁ、あれだ。彼女と別れた。」


「え!あの2年付き合っていた年上彼女さん?」


「あぁ。まぁ色々あってな。嫌なことはビールに流そうと思ってさ。」


そう言うと、彼は、程なく運ばれてきたビールを言葉通り体内に注ぎ込んでいた。


「あんまり飲みすぎるなよ。」


「心配すんな。なぁ、シメサク。好きってなんだと思う?」


既に酔い始めているのか、クジは少し目が据わっていた。


「なんだよ、藪から棒に。」


「シメサクは見た目そこそこイケメンだし、友達も多いから、恋愛経験も豊富そうだなと思って。」


「そんな事ねーよ。てかそこそこって地味に失礼だな。」


「はは。俺はさ、好きって"憧れ"に近いものだと思うんだよな、うん。きっと俺は彼女の自由奔放なところに憧れて、いつの間にか惹かれていたんだよ。」


クジは、俺に質問を投げかけたくせに自分で答えて、遠い目をした。


好きが何か?なんて考えたことも無かった。


「あ、そうそう。新しい曲作ったぞ。あとで送っとくからご査収願うよ。」


「おぉ、ありがとう!聴いておくよ。次のライブでやる?」


「そうだな、歌詞が間に合えば。シメサク、歌詞任せていいか?」


「えっ、俺が?歌詞書いたことねーんだけど。いつもクジが書くじゃん。」


「わり、今このメンタルじゃいい歌詞書けそうになくてさ。俺らの曲って失恋ソングってガラでもねーしさ。」


「マジかよ…。」


そう言われると何も言い返せず、渋々了承する事となった。


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