雨の日の美少年

Side 朔也


雨の日ってテンション下がるよなぁ。


まぁ6月だし仕方ないけど。


早く梅雨明けて欲しい。


そんなことを心でぼやきながらバイトに勤しんでいた。


夜の21時を過ぎた頃、例の男の子が店内に入って来た。


少し大きめのパーカーにジーンズ姿。


彼はいつもだいたいその格好。


またカフェラテと肉まんかなと思って観察していたら、案の定だった。


もはやルーティーン化されているから、入店からカフェラテを持ってレジに来るまでが秒速だ。


「肉まんをひとつ下さい。」


いつもと一語一句変わらない一言を彼が放つ。


俺は肉まんを取り出し、カフェラテと一緒にレジに金額を打ち込む。


彼はスマホで決算をする。


ここまではいつもと同じ。


でも、ここからが違った。


「肉まんとカフェラテって合うの?」


俺は、思わず彼に聞いてしまったのだ。


「え…?」


彼は、驚いた顔で俺の方を見つめる。


数秒、目と目が合った。


くっきりとした二重幅にクリクリとした目。


憂いを帯びたような睫毛。


薄い唇に白い肌。


サラサラとなびく髪の毛。


雨に打たれたのか、少しだけ毛先が濡れていた。


改めて見ると、非の打ち所のない美少年だった。


「あの…なんでですか…?」


俺がぼーっと彼の顔を見ていると、痺れを切らしたように、俺の質問の意図を問いかけてきた。


「あ、ごめん!その…いつもその組み合わせだから気になって。肉まんってさ、烏龍茶とかの方が合うんじゃないかなーなんて思ったりして…。」


俺は慌ててそう言うと、彼は少し考えてから言った。


「カフェラテが好きなんです。」


そう答えると、彼はそそくさと踵を返し、外に出た。


「…俺、なんであんな事聞いたんだろ…」


俺は、しとしとと降る雨の中を歩く彼の華奢な背中を見送りながら独りごちた。

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