第4話 我が猛獣よ、鎮まれ! 前編

「鬼の末裔、月門護助。今、ここで貴様を死刑に処す!」


俺の目の前で刀を腰に差した厳格そうな男、叔父が殺すと宣言した。


「へっ!?」


 そんな状況で俺は逃げなかった。というよりできなかった。


 何故なら俺は手足で金属で固定され、身体の中で暴れ回る猛獣を己の精神力で抑えるのに必死で、全く力が入らなかった身体。


 本来なら叔父が俺を殺そうとしていることに焦るべきなのだろうが、俺の意識は完全に内側に向いていた。


 鬼の末裔とか、死刑とか、今はそんな事どうでもいい事なんだよ!俺の中にいる猛獣よ。鎮まれ!大人しくしてください、お願いします。


ーガルルルグルルルルッ!


 はぅ!?神様助けて!


ー・・・・・・


 反応くらいしてくれ!


ーグルルルルガリュルルルルグヂッ!


 猛獣さん!いや猛獣様!どうか、どうか!機嫌を直して!誰でも良い!てかオッサン!死刑でもなんでもしますから今は助けてぇぇぇぇえええ!?


 何故俺はこんなことになっているのか?それは俺が分かれ道で俺だけ違う方へ行くよう言われたところまで遡る。




「なんで俺だけ?」


 俺、母さん、妹の三人一緒ではなく、俺だけ別の道に行く事に疑問を感じた俺は、叔父さんに尋ねた。


「部下から話は聞いている。大人達相手によくやったものだ。だから何故それができたのかを検査する為だよ」


 それ聞いて最初に反応したのは俺ではなく、


「そんな!兄さん、護助に酷い事はしないで!あの子は人間よ!」


 母さんだった。えっ、俺何されんの?


「美香(母の名前)、落ち着け。ただ検査するだけだ」


 叔父さん、ただ検査するだけとはとても思えないです。


 流石に俺でもわかる。五歳の少年が複数人の暴力専門家の大人達を制圧したのだからこれがおかしいなんて事、誰でもわかる。


 そんな子供を彼ら大人が検査するという事は……。つまりそういう事なんだろう。どういう事だよ!?


「絶対に、絶対に!酷い事はしないでくださいね!」


 叔父さんに引き連れられていった母さんは最後まで俺の両サイドにいる黒服達にも叔父さんにもそう言って見えなくなった。


「護助様、こちらへ」


 俺も黒服達に連れられ、廊下を進んだ。


 左曲がってー、右曲がってー、上がってー、降りてーとあっち行ってこっち行ってを繰り返して、今自分が何処にいるのかわからなくなって来た。


「まだつかないんですか?」

「あと少しです」


 俺がいつ到着するのか聞いても黒服達はあと少しとしか答えない。


 これってあっちこっち行って帰り道、逃げ道はわからないようにしてるんだろうな。………やばいじゃん!?


「此処です」

「…………」


マジか。


 最初にそう思った。そこは部屋に入ってもいないのに、入ってはいけないとわかってしまった。理由?


 それはその部屋だと思われる壁が金属製で部屋に入る為の扉も金属製だったからだ。 

 それも扉はただの金属製の扉ではなく、まるで銀行の金庫にある扉のように厳重な鍵などが付いていた(実物は見た事ないけど)。


 絶対に此処に入ったら出さないって事なんだろうな。もしくは暴れても壊れないようにする為か?たぶん両方の目的だろうな。


「此方にお入りください」


 黒服達がその金庫のような扉を開けて中に入るように言う。

 入りたくねぇ。でも入らなくても絶対無理矢理入れようとするだろうなぁ。


仕方なくその部屋に入ってみると、


「ん?椅子?」


 そこにあったのはコレまた金属製の椅子だった床に固定されている脚に全体的に四角の形をしたその椅子には手を置く場所や足がくるであろう場所に輪っかがあった。


「コレ、どう見たって拘束用のムグッ!?」


 椅子と言いかけるところで後ろから口に手を回され俺の口と鼻を布で覆った。


 い、意識が……!?くす、りか……。


 そこで俺の意識ははブラックアウトした。

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