第14話穂のかな香水の香りに…

「お早う御座います旦那様…」

「ああ、おはよう、いつも綺麗に掃除をしてくれて有り難う」

「……い、いえ、わたくし達の仕事ですから…」

ブランシェ家のメイドとして働き始めたカレン嬢は今日は庭の掃除を数名のメイド達と一緒に任され、偶然外を歩いていたユリウス侯爵に会い、少しの会話が出来た事に喜び今日も上機嫌のカレン嬢だった。

(はあ~っ…いつ見てもユリウス様は素敵よね……ユリーナ様が羨ましいわ家柄同士で決めた結婚でもユリウス様と結婚が出来るなんて…羨ましさを通り過ぎて憎いと思ってしまうわ……学園にいた頃ユリウス様にわたくしを見て貰いたくて何度もお茶会の席を取り合いをしたでしょう…でも結局、他の女子にユリーナ様に邪魔され数回だけのお茶を一緒にするだけで、二人だけに成ることも出来なかったわ

そしてユリウス様が学園を卒業されるまでわたくしの事を見てくださる事は無かった……)

カレン嬢は学生時代の頃を思い出し外を歩くユリウス侯爵の後ろ姿を見ていた。

キョロキョロと辺りを見回し、他のメイド達が別の場所で掃除をする姿を確認したカレン嬢は、ユリウス侯爵の後を付けていた。

ユリウス侯爵は庭の花壇の側にあるベンチに座り持っていた本を開き始めた。

ユリウス侯爵が、毎日のように早朝庭で本を読む事はメイド達が話しをしているのを聞いた事があり、またメイド達数名ユリウス侯爵に告白をしたが断られた話しもカレン嬢は聞いていた。

(メイド達半数はユリウス様目当てでユリーナ様に気付かれ無いように告白をしていたと聞いたわ、時には告白をして断られたメイドは屋敷に居ずらくなり辞めたメイドもいたと聞いたわ……ユリウス様目当てで、メイドとして屋敷に入ったのはわたくしだけでは無いようね)

カレン嬢は同じ屋敷の中でユリウス侯爵と一緒に暮らす事に幸せを感じ、欲を言えばユリウス侯爵の妻にと考えていたが、まだユリウス侯爵に自分の気持ちを伝えていないカレン嬢は、メイド達の噂話しを聞き自分がやりたいと思っていた事を他のメイド達が行い失敗をした話しを知った。

真夜中、寝静まったユリウス侯爵の部屋へ一人のメイドが行き、メイド長に見つかり叱りを受けそれ以来ユリウス侯爵の部屋には鍵が掛けられ勝手に入る事が禁じられる、その話しを聞いたカレン嬢はショックを受けた事を思い出していた。

(好きな人の側に居たいし…愛されたいと思う…)

ぼーっとベンチに座るユリウス侯爵の後ろ姿を見ていたカレン嬢に、くるっと突然後ろを振り向くユリウス侯爵にカレン嬢は驚き、カタン!と持っていた掃き棒を落としてしまった。

「何か用かな?」

「あ…も、申し訳御座いません旦那様…熱心に本を読まれて居ましたので、此方を掃除しても宜しいかと御尋ねしたいと思いまして……」

「…」

顔を真っ赤にして頭を下げたカレン嬢を見て、ベンチに座っていたユリウス侯爵は、開いていた本を閉じそしてカレン嬢の側へと歩き始めた。

(え、え!?ユリウス様がこっちに来るわ)

ドキドキと心臓の鼓動が煩く鳴り、重ねていた両手に汗が滲み、カレン嬢は頭を下げたまま近付くユリウス侯爵の足が見えた時ドキッとした。

目の前で体を屈み、落とした掃き棒を拾い上げたユリウス侯爵の体から穂のかに香る香水にカレン嬢は体が固まっていた。

「掃除用の道具を落としたよ、私は此処を離れるから掃除を御願いするよ」

「……」

掃き棒をユリウス侯爵から手渡され何も言えないカレン嬢は、そのまま自分の側を離れるユリウス侯爵の後ろ姿を見えなくなるまで見届けていた。

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