第43話 イイニシモハシブトオオトカゲの目、パーセルヒラドライチョウの瞳

 さて。


 発展途上惑星・地球 (当時)が星間連合と云うか銀河に与えた大きな影響の一つ『ロボット種の地位及び権利の向上』について、前回書き忘れていたことをここで書いておこうと思う。


 が、例によって、ここでも再び、前回ご登場頂いた長寿命のお医者さま (当時972才)のインタビュー記事から抜粋した方が話は早いだろう。


     *


《(…)そこで僕はランベルト三世大帝のところに彼女とともに行った。もちろん、大帝陛下が彼のひいじいさんと同じく大のロボット嫌いだと知ってのことだ。


     *


『何故、メスのロボットなぞ連れて来た』と、例の威圧感たっぷりの声で大帝が訊いた。


『「信頼出来る医者を連れて来い」と仰られたのは陛下では御座いませんか』と、僕はとぼけた感じで答えた。


『(*検閲ガ入リマシタ)のメスなぞ信頼出来ん!』と、大帝。


『それは違います。陛下』と、僕。


『何が違うのだ?』


『少なくとも、今回のワクチン接種において、彼女ほど信頼の置ける医者はこの銀河には存在しないからです』


『ワハハハハ! (*検閲ガ入リマシタ)のメスがか?』と、大帝が、例のブルギールハヌルカスハイイロオオアザラシによく似た笑い声を立てながら言った。


『コドクオオスギマダラカミキリの爪の先ほどの星系の、更に繁殖期のグランダナモキイロマダラカの卵のごとき惑星から来た (*検閲ガ入リマシタ)の設計で作られた (*検閲ガ入リマシタ)のメスが?!』


 そうして、この大帝の言葉と笑いに合わせるかのように近侍の宦官どもも笑い出し、ベルヌラス大広間は彼女への嘲笑で満たされることになった。


『銀河で!一番の!信頼出来る医者だと?!』


 僕の隣に立つ彼女は、その高分子型ナノマシンで出来た小さな肩を震わせながら屈辱に耐えているようだった。


 そこで僕は、震える彼女の手をしっかり握り締めると、少し怒気を込めて、大帝にこう言ってやった。


『よろしいですか!陛下!』広間の嘲笑が一瞬止んだ。


『今回の第二次オートマータ戦争における犠牲者の数は、前回の第一次オートマータ戦争の4.2倍に上るとの予測がされています』


 すると、ここで、宦官の一人が『それがどうした』と笑いながら言った。


 その言葉を聞いた大帝は、完全に笑うのを止め、そいつを外に連れ出すよう他の宦官たちに言った。


 そうして、その宦官がコクマルアシブトオオオオカミに襲われる声を聞き終わってから、改めて僕の方に向き直った。その時の大帝の顔は、真剣なものに変わっていたと思うよ。


『……それで?』と、大帝。


『しかし、その犠牲者の数は、陛下の仰る繁殖期のグランダナモキイロマダラカの卵のごとき (*検閲ガ入リマシタ)で作られたロボットたちがいなければ、更に7倍、8倍と膨れ上がって行くものと思われます』と、僕は続けた。


『何故、』と大帝が、あのイイニシモハシブトオオトカゲのような目で僕を睨み付けながら訊いた。『そのようなことが言える?』


 すると、僕がビビっているのが分かったんだろうね。今度は例の彼女が、僕の手を強く握ってくれたんだ。


 そこで僕は、更に勇気を振り絞って、


『ハヌルカスの戦いでは!』と、続けた。


『地球出身のある看護師ロボットが、たった一人で、連合側・同盟側合わせて1万4千人の兵士の命を救いました!』


 大帝の顔色が変わった。


 僕は続けた。


『また、デラポラース神殿を守る戦いにおいては、同じく地球出身の防衛特化型ロボットたちのおかげで、神官・巫女たちはもちろんのこと、一人の市民の犠牲も出すことなく、みなを避難させることが出来ました!』


 大帝は身を乗り出して聞いている。もう少しだ。


『そうして今回、』


 と、僕の隣にいる彼女を、人型ロボットの彼女を、改めて紹介しつつ僕は言った。


『同盟側が撒いたとされる殺人型ウィルスに対して、その根治ワクチンを開発したのは、』


 この時点で、三世大帝の瞳はパーセルヒラドライチョウのような優しいものになっていたと思うよ。


『他の誰でもない――この彼女です』


     *


 と、まあ、以上が、ランベルト三世大帝のロボット嫌いを治療した時の話なんだけどね。ほら、一応、僕もドクターだから。


(…)でも、君たちも知っているだろう?あの青と白のペインティングを施されて、背中に丸いベルのマークを背負った地球出身のロボットたちを。


 正直、彼ら・彼女らのおかげで、銀河の住み心地は、かなり改善されたと思うよ。》

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