第35話 《おはよう。フェルプス君》

『お早う。フェルプス君』と、机の上のヘルメットが言った。


『この前時代的なテキスト形式でのコミュニケーションにも大分慣れて来てくれたようだが――私は大分慣れて来たよ!(^^)!――以前にもお伝えしたモールス式信号でのコミュニケーションについても、こちらは絶賛準備中であるので (タイムデパートの骨董品部門にハイモンド・エレクトロ社の電鍵も注文した)、是非、引き続きのご検討をお願いしたい。( `・∀・´)ノヨロシク。』


「あの!」と、小張A (蝶ネクタイ)が目を輝かせながら言った。「出来ます!モールス信号!」


「いえ、」と、冷たい声で赤毛の女性が答えた。「結構です」


『さて。それでは本題だが、先ずは敵の正体について、頂いた情報から大体の目途が付いたのでお報せする。

 可能性として考えられるのは、プレアデス星団の 《音主》族かM3星団の 《眼狗》族で、どちらもソニック技術を高度に発展させており、無生物を分子レベルで意のままに操れることで有名だ。

 但し 《眼狗》族の方は、その宗教観から過去を振り返ることを極端に避ける――と云うかバカにする傾向すらあって、この前の予算会議でも我々タイムパトロール部門のことを『過去にこだわるバカ』だの『未来を見つめろこのチビ』だのと揶揄して帰って行ったので、私は大変憤慨した記憶がある。ヽ(`Д´)ノプンプン』


「あの、」と、小張C (コンバース)が赤毛の女性に訊いた。「地球人はチビって扱いなんですか?」


「ああ、」と、女性は少し考えたが、「それについては追々」とだけ答えた。


『なので、過去への興味がない 《眼狗》族は候補から外せるため、今回の敵は十中八九 《音主》族だと思って良いだろう。

 彼らのソニック技術には目を見張るものがあるが、タイムトラベル技術については未だ光速度にこだわっているレベルなので、君が見たと云う宇宙船型のタイムトラベルマシーンにも納得がいく。

 恐らく宇宙空間を利用した回転式タイムトラベルでもしたのだろう。』


「なるほど」と、今度は小張B (フロックコート)が女性に訊いた。「ゲーデルやティプラーのアイディアと一緒ですね?」


「うん?」と、大学での専門が古英語だった彼女は、それでもタイムパトロールとしての体面が邪魔をして、「ええ、そうっぽいですね」とだけ答えた。


『まあいずれにせよ、この件に関しては連合から 《音主》族の元老院に話を聞いているところなので、続報を待って欲しい。問題は、そちらの時間をどうするかだからな。』


「すみません」と、この話を横で聞いていた桜台の紳士が声を上げた。「『そちらの時間』ってどういう意味ですか?」


「あっ、それはですね」と、小張A~Dは一斉に説明を始めようとしたが、赤毛の女性がこれを制して、「この後ぐらいに、博士の説明が始まるかと思います」と言った。


『今、君たちの誰か若しくは全員から「『そちらの時間』ってどういうこと?」と云う声が聞こえたような気がしたので、前回の復習も含めて、少し補足しておこう。


 例によって、読み上げ機能を使用している場合は、ホログラム機能の同時使用をお勧めする。』


 この博士の言葉に従がって女性がヘルメットのホログラム機能を入れると、目の間の空間に、ハングル・漢字混合の文章が浮かび上がった。


『先ず、いま私のいる時点を 《時点A1》、君たちのいる時点を 《時点A2》とし、問題となっている1969年を 《時点B1》とする。

 と、本来歴史は、

――――――――――――

・時点B1→時点A1

――――――――――――

 と云う風に流れていたことになる。

 しかし、この 《時点B1》若しくはその前後に 《音主》族の介入があり、時間の流れは、

――――――――――――

・時点B1→時点A2

――――――――――――

 と云う風に変えられてしまったワケだ。

 それで、この流れをこのまま放置しておけば、本来の歴史である 《時点A1》は消滅、《時点A2》に置き換えられてしまうことになる。

――――――――――――

×時点B1→時点A1

〇時点B1→時点A2

――――――――――――

 なので今、我々の方でいくら 《音主》族の過去への介入を止めたところで、それは 《時点A1》と繋がった 《時点C1》での出来事であり、それは、既に改変された 《時点B1》を更に改変させ 《時点B2》を生み出すことにしかならない。

―――――――――――――――――

・時点B1→時点A1→時点C1

  ↓(C1が生み出す)

・時点B2→時点A3→時点C3     

―――――――――――――――――

 つまり、前述のように 《時点A1》が消滅されることになれば、そこから生み出されたこれらの流れも同時に消滅してしまうことになるワケだ。

―――――――――――――――――

×時点B1→時点A1→時点C1

× ↓(C1が生み出す)

×時点B2→時点A3→時点C3 

〇時点B1→時点A2→時点C2

―――――――――――――――――

 ここまではよろしいだろうか?』


     *


「いかがです?」と、テキストの読み上げ機能を一時停止しながら女性が訊いた。彼女自身も十分に理解出来ているかどうか自信はないようだ。


「なんとか、」と、空間に浮かび上がった『B1』の文字を見詰めながら男性が言った。「ついていけています」


     *


『であるからして、「そちらの時間」である 《時点A2》や 《時点C2》から 《時点B1》を元の形に修正することが求められるワケだ。

―――――――――――――――――

×時点B1(改竄)→時点A2

〇時点B1(修正)→時点A1

―――――――――――――――――

 更に、このややこしい状況について色々と考えてみた結果、どうもそちらの男性が大きなカギになっていることも見えて来た。』

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