第10話 紺色の服の女性

 ブブッ。グオン。シュン。


 作業員たちであふれ返る工事現場の片隅に、一瞬、真っ暗な空間が現れたかと思うと、直ぐに消えた。


 1969年9月9日。火曜日。14時05分。空間が消えた場所に、代わりに一人の女性が現れた。濃い紺色の、どことなくイギリスの警察官を思わせる服を着て、頭には大きなゴーグルの付いたヘルメットを被り、腰には奇妙な目盛りとダイヤルの付いたベルトを巻いている。


「おい、ありゃ何だ?」作業員の一人が彼女に気付き仲間たちに声を掛けた。


「警察かな?」「外国人じゃないか?」男たちが作業の手を止めて彼女を遠巻きに見る中、当の本人は、我関せずと云った感じで、昨晩ピスタチオ色の宇宙船が消えた辺りを、手持ちの――これまた奇妙な目盛りとダイヤルの付いた箱型の機械で探っている。


 ピ、ピピ、ピ、ピピー。


「なるほど」と、女性が言った。「珍しい回転式ね」


「おい、君!」と、彼女を見守る人だかりの奥の方から野太い声がした。「どこの誰かは知らないが、ここは私有地だ。関係者以外の――」


 と、ここの現場監督が怒鳴るのが早いか、次の瞬間、女性の姿は見えなくなっていた。ピスタチオ色の宇宙船同様、彼女も周囲の景色に溶け込んで行ったのである。

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