第8話 白の時代。

 さて。ここで、本編とは全く何の関係もないような話を一つしておきたいと思う。


 それは『2001年宇宙の旅』と云う1968年4月に公開されたSF映画についてのちょっとしたトリビアである。


(映画の内容そのものについては、映画史のベスト・ランキングがあると必ずと言っていいほどランクインする名作中の名作であるので、今回は省略させて頂く。もしも気になる方がおられた場合はツタヤに走ったりアマゾンでポチったりして頂ければ良いのだが、注意すべきは、『小説版も一緒に読まないと途中から意味不明になる映画だ』と云うところだろうか)


 と云うのも、映画本編をご覧になった方なら疑問に思われた事もあるかも知れないが、この映画における宇宙服の雰囲気と云うか色そのものが映画の前半と後半でガラッと変わるのだが、これには実は製作者側と言うか60年代と云う時代の事情があった……と云うトリビアである。


 先ず、一番最初に出て来る宇宙服は、月面基地から発進したバスの中で食事をする博士達が着ているそれであるが、ここで彼らの着ている宇宙服は全て【銀色】であり、月面のシーンが終わるまで、これは変わらない。


 しかしその後、映画の舞台が木星探査船の船内に移ると、そこの乗組員達が着る宇宙服は【赤】とか【黄色】と云った発色の良いカラフルなものに変化する。


『組織によってイメージカラーを変えたのではないか?』と思われる方もいるかも知れないが、さにあらず。これは、映画が制作された1960年代半ばにあった《鉄からプラスチックへ》と云う産業構造の変化がもたらしたミス、と云うか修正漏れなのである。


 と云うのも、例えばアメリカの宇宙計画を例に取ってみると『マーキュリー計画(1958~63年)』で使用されたロケットは、基本【銀色】をしていた。


 しかし、これが次の『ジェミニ計画(1962~66年)』のものになると、その外観は概ね【白色】に変わって来るのである。


 この時いったい何が起こっていたのかと言うと、それまで軽量化のため塗装なしを(つまり、鉄の地肌が見えることを)基本としていたロケットの表面に、その機体及び乗組員の保護のため、セラミックやプラスチックが使われ始めたのである。


 つまり、この頃、《宇宙・宇宙船》のイメージが従来の【銀色】から【白色】を代表とする、いわゆる【プラスチック・カラー】へと変化していったのであるが、困ったのは『2001年宇宙の旅』の製作陣である。


 それまで撮影用のミニチュア宇宙船は全て銀色に塗っていたのだが、『ジェミニ計画』のロケットを見ると白色になっている。


『このままでは時代遅れのダサい映画になってしまう!』と、あの鬼才が思ったかどうかは知らないが、彼は急遽全てのミニチュアロケットを白に塗り直し、宇宙服も赤や黄色にするようスタッフに指示を出した。


 出したのであるが、それより以前の、かなり初期の段階で撮影を終わらせていた月面シーンについては、修正することが出来ず、結局銀色の宇宙を表現することになったのである。


 さて。やたらと長々と書いて来てしまったが、このトリビアをご披露することで私が何を言いたかったのかと言うと、それはつまり『60年代は、プラスチック製品の台頭著しい時代でもあった』と云うことである。


 え?それが本編とどう関係してくるかって?それは、お話の続きをご覧頂くことで確認して頂きたいと思う。

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