第11話 別れの丘

「マルテ教王の腕を取り返せ!」

 ひときわ高く響いた声は、リダくんのものだった。

 儀式の際に立ってた位置の関係で、みんなより遅れて追いついてきた。


 万事休す……

 ロケットは丘を三つ越えた先で、ここからは見えもしない。

「ロボンヌ! 助けて!」

 どうしようもなくなって、マルチリストバンドに向けて、ただ叫ぶ。

『アイアイサー!』

「!?」


 ロケットがある方角から、野球ボールからプロペラが生えたようなドローンが飛んできてピンク色のレーザーを撃ち出して、練炭に着火。

 マルテ教王の腕が炎に包まれた。


 リダくんが立ち止まる。

 二機目のドローンが火星住民の足もとに水色のレーザーを走らせて追い払って、空いた道をアタシは全速力で駆け抜けた。


「ロボンヌ! アンタいつから起きてたの!?」

『アリスが柱ヲよじ登っていたトキからデス。ひどく不格好な姿でしたノデ、声をかけるのは失礼かと思いまシテ』

「今のほうが失礼!」


 色鮮やかなレーザーは、ロケットを用意した親戚の趣味。

 攻撃力なんてほぼない花火みたいなもの。

 それでなんかちょっとロマンチックな気分になって、センチメンタルにもなってしまった。


 追っ手の声が遠ざかる。

 怖がられてる。

 これでいいんだけど。

 寂しい。

 みんなの声が、遠く少なくなっていく。


 フオシンくん、アタシのことキライになっちゃったかな?

 丘をもう一つ超えればロケットが見える。

 お別れのあいさつ、ちゃんとしたかったな……


『アリス、言い忘れていることがありマシタ』

「何?」

『これを忘れるというのハつまり私がまだ本調子ではないからなのデスガ』

「だから何?」

『助けテ』


 その声を聞くのと同時にアタシは丘を上りきった。

 ロケットは、巨大ニワトリの襲撃を受けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る