第10話 広場
集落の中央の、運動会が開けるぐらいのサイズの広場。
ひいおばあちゃんのアルバムで見た盆踊りのような
櫓の上ではフオシンくんがマルテ教王の腕を胸に抱いてたたずみ、櫓の足もとに積まれた薪の山の前ではリダくんが火の点いた
どっからどー見ても生け贄の儀式だ。
てゆっか薪があるんなら薪だけで燃やしとけばいいじゃん。
よその宗教に口出しすんのは好きではないけど、秘密を知ってるネルガル祭司がこんなもんを求めるわけがないってわかってるんだから放ってはおけない。
そのページだけが破り取られて金庫の外に出ていたのはきっと、ネルガル祭司が破り捨てたってことだったんでしょ。
前提がこれなんだからフオシンくん本人の意志やら信仰は無視!
それでなくても死なす気ないし!
旗飾りを吊るすロープは、広場の隅の柱から柱へと渡されている。
アタシは今、その柱の一つによじ登っている。
その辺の納屋から盗んだ滑車をロープに引っかけ、その辺の物干しからこれまた盗んできた白っぽいそれっぽい服を風にひるがえして、勢いよく柱を蹴飛ばす。
「えんじぇるぅぅぅ! ふらぁいいいっ!!」
アスレチックのロープウェイの要領で、アタシは広場の空をアナログに駆け抜けた。
櫓の上のフオシンくんの、驚きすぎてポカンとした顔がグングン迫る。
すれ違いざまその手から、マルテ教王の腕を引ったくる。
だってしょうがないじゃない。
止めようと説得しても言葉は一方通行でマジでどうしようもないし。
逆に天使が怒ってるって誤解されて儀式をあせらせちゃったし。
アタシはそのまま反対側の柱に衝突しての、かなりカッコ悪い着地を決めた。
えーん! 華麗に舞い降りたかったよォっ!
落ちた場所は広場の端っこ。
とはいえ広場自体がそんなに大きいわけではないので、すぐにみんなが集まってくる。
アタシは脱ぎ捨てた白い衣を、ロケットから持ち出したサバイバルキットの練炭にかぶせ、マルテ教王の腕と並べて発煙筒を乗せて、これまたサバイバルキットのマッチを擦った。
これで煙に紛れてアタシ自身はドロンしちゃえば、教王の腕は天使を生け贄に天に召されました、って話になるわけよ。
わけよ。
わけなの。
わけなんだけど……マッチが……火が点かない!
そうこうするうちアタシはみんなにすっかり取り囲まれてしまった。
「あの服、わたしのだわ!」
「あの滑車は俺ん家のだ!」
火星住民たちが叫ぶ。
「まさかこのおかたは……天使ではない……?」
やっとその言葉が火星住民の口から出た。
そう。アタシはアンタたちのご先祖と同じ、ただの人間……
「堕天使だ!」
「悪魔だ!」
へ?
「ネルガル祭司が倒れたのはこいつのせいだ!」
「こいつがマルテ教王を殺したんだ!」
あああああ!
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