第61話 壊れることの無い絆

ホープが俺のいる階段の所に飛びかかってきた。


急いで階段から飛び降りる。同時に崩壊音を立てながら、俺のいたところにホープが突っ込んできた。


地面に着地する。上から落ちてきた瓦礫で頭を打った。砂埃も上から降ってくる。



とりあえず階段から離れた。矢をつがえて砂煙が舞っている階段に狙いを定める。でかい図体をしてるわりにはかなりのスピード。……さっきと似たようなもんか。


砂煙の中から2つほどの光が出てきた。ランプとかチョウチンみたいな丸っぽい感じの光だ。


「……なんの光だ?」


口に出したその時だった。




ストン……。


隣にあった車が真っ二つに割れた。その光から出たビームのような物が、車を前後に分けていたのだ。


「なんだよこれ……」


これはやばい。レーザービームなんて初めて見た。どんな原理でやってんだよ。


まだ光から出ているビームはひとつしかない。つまりまだあと1回は打てるということ。



左側に全速でダッシュする。ホープの周りにはまだ砂煙が舞っている。視界はかなり悪い。俺の位置を特定することはできないはずだ。


地面が砕け散る音と共に、ホープが砂煙の中から飛び出てきた。赤い翼をはためかせ、こちらを睨みつけている。


ホープの龍が2匹、大きく口を開けていた。その中には蒼白い光が、さっきのホープのように鎮座していた。



左の龍からレーザーが発射された。体を無理矢理ねじってレーザーの斜線上から避ける。


しかしレーザーは止まることがなかった。俺を追いかけてくるようにレーザーが動きだす。


ホープが砂煙の階段の向かい側の壁にしがみついた。左手の刃を突き立てて壁に張り付いている。


レーザーは地面を切断しながら俺を追いかけてくる。地面は硬い大理石みたいなやつだ。それを当たり前のように切れる物に当たると……考えなくても分かる。


瓦礫を飛び越え、飛び出ている鉄の棒をスライディングで避ける。パルクールはやったことがないが、これが火事場の馬鹿力というものなんだろう。



急にレーザーがピタリと止まった。足で急ブレーキをかける。なんだ。なんで止まった?


ホープのところに目をやる。ホープの足に血管が浮かび始めていた。……なんか嫌な予感がする――。


ホープが壁にヒビを入れて、俺の所に突っ込んできた。まるで魚雷のようだ。


ホープが地面に着地した瞬間、地面が大きく揺れた。いや、波打ったと言った方が正しい。とにかく、体が地面から浮くくらいの振動が俺を襲った。


ホープが突進してきた時の風圧で壁まで飛ばされた。背中が壁に衝突する。


「――つつ」


フラフラしながら立ち上がる。骨は折れてないようだけど……痛い。



ホープの龍が俺を睨みつけている。もちろん全匹だ。獲物を見つけた時の蛇のように、餌に食らいつこうとしているカマキリのように、目をギラギラと輝かせ、俺を殺すのを今か今かと待ちわびている。


こう見てみるとなかなか可愛い。ホープに繋がれてなかったらペットとして飼いたいくらいだ。食事量がとんでもないことにはなりそうだがな。



龍が大きく口を開けた。中から蒼白い光が光っている。それが4つ。俺を狙ってきている。


「イルミネーションにしては質素だな。もっと色を増やした方がいいぞ」


4つの光の線が発射された。体を左に飛ばして、4つのレーザーから逃げる。もちろんさっきと同じようにレーザーは俺を追ってきた。



丸い空間を走り回る。レーザーが先回りして俺の腹部あたりに来た。横の壁には痛々しいような焼け焦げた線が見える。


スライディングをしてレーザーを回避した。すぐに体勢をたて直して立ち上がる。


また走り出そうとした時、下の地面を切り裂きながらレーザーが這い上がってきた。



跳び前転でレーザーを回避する。俺は結構身体能力は低い方だったんだが、人は追い詰められると結構動けるようになるようだ。


4つのレーザーが落ちてきていた瓦礫を切断しながら、俺を追ってくる。弓で攻撃しようにも、油断も隙もあったもんじゃない。





「ハァハァ……さすがに……疲れてきたぞ……ハァハァ……」


足が鉛のように重くなってきた。疲労でスピードも下がってくる。しかしビームは止まるどころか、更に速くなっている。


4つのレーザーを避けながら隙を見つける。こんなのは至難の業だ。さっさと逃げておけばよかった。


「これは……やばい……」


後ろから迫り来る2本のレーザーを、しゃがみジャンプで避ける。パルクールの選手が見たら、鼻で笑いそうだポーズだった。


地面に着地した時、膝に力が入らずに地面に倒れてしまった。


「ハァハァ……くそっ……」


足が震える。腕もガタガタとして立ち上がれない。レーザーが横と斜めの4方向から迫っていた。


「ハァハァ……逃げ……ないと……」


汗が吹き出ている。まるで滝行でもしてきたかのように。


体が言うことを聞いてくれない。筋肉も働いてくれない。レーザーが近づいてくる。


「くそったれめが……ハァハァ……まだ……死ねないんだよ……」


そうは言うものの体が言うことを聞かない。もう、弓を持ち上げる力も残っていない。今まで無理してきたツケが最悪のタイミングで襲いかかってきた。


「ハァハァ……あぁ……桃……」


桃は大丈夫なのか。しつこいくらいに思い出す。あの子は無事か。どうなってんだ。


目が光に覆われていく。これは……これはやばい。レーザーが俺の顔の2cm以内に入った。



俺はここで死ぬことを理解した。流石にレーザーを耐えれる自信はない。俺もしぶといが、どうやらそれもここまでのようだった。


「……ああ。……すまん、皆。……俺、ここで……死んでしまうわ」


目を瞑る。瞼の裏は日光を見ているかのような明るさだった。























ブシャァァ!


何がかかる音がした。同時にレーザーの熱も感じなくなった。光も音も、何も感じなくなった。


「……死んだのかな…俺……」


ゆっくりと目を開ける。






「――ァァァァァァァ!!!」


そこには顔を抑えてもがきまわるホープの姿があった。


「……な、なんだ?」


辺りに焼肉でもしているかのような、肉が焼ける音がする。なんで焼けてんだ?自分の顔にレーザーでも放ったのか?



龍の視線がどこかに集中していることに気がついた。龍の目の方向に、俺も目をやった。






「楓夜!!大丈夫!?」


そこには桃がいた。……な、なんで桃がいるんだ。あのチビはどこだ。


「桃!?なんでここにいるんだ!」

「楓夜が心配で戻ってきたんだよ!死んではないと思ってたけど、予想どうりだね!」

「そんなことを言ってる暇はない!ここはもう少しで崩壊するんだ!!先に上で待ってろ!!」


ここにいたら桃も死んでしまう。こいつのレーザーの射程距離は知らないが、当たれば大怪我は間違いなしなんだ。


「今のは私がいなかったら死んでたでしょ!!私も手伝わせて!!」

「ダメだ!!死にたくなかったら上へ行け!!俺も後で行く!!」

「……さんざんカッコつけておいて……どんどんと弱っていく彼氏の姿を見せられる彼女の気持ちも考えてよ!!」


桃の声が震えだした。


「私は怪我人だけど戦える!!いや、戦えなくてもサポートはできるんだもん!!もう私だけ何もしないのは嫌なの!!」

「……桃……」

「……ここにログさん達が来てないってことは……皆死んだんでしょ?……もう……誰も死なせたくないよ……皆傷ついて欲しくないよ!!」


桃が地面にポタポタと涙を流している。その涙は宝石のように綺麗だった。


……桃。あんだけ桃を助けるとか言っておいて、桃の気持ちを考えてなかったのは俺だったじゃねぇか。……アホらしい。馬鹿だな、俺。


「……桃!!」


桃が俺の方を見る。目にはまだ涙が溜まっている。


「――死ぬ時は一緒だ!!」

「――うん、うん……」


桃が更に涙を流した。ここから先は、この子がもう二度と泣かない人生を送らせよう。涙は見てみたいが、あの子が泣く姿は見たくない。






「――遺言は……終わったか……」


ホープがこちらを見てきた。顔は焼けただれており、ピンクと赤色が混ざったような色の筋繊維がよく見える。


「いい顔になったじゃないか。うちの彼女の整形術はすごいだろ。……今度は俺が整形させてやるよ。…………」

「その減らず口……もう終わりにさせてやる……」


弦に矢をつがえる。ここでこいつは倒す。後ろには桃がいるんだ。俺は強い。最強だ。どんなやつにも負けないぞ……。













続く

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