第7話 呪い

「そういやよ。ヤツらはどうやって俺らを感知してるんだろうな」


高校に向かって歩いていた時。藤木さんが問いかけてきた。


「普通に嗅覚じゃねぇか?ヤツらの外見からしておそらくゾンビの類だ。ゾンビは嗅覚で人間を判断している設定だぞ」

「アニメの見すぎだクソ金髪。もし嗅覚で感知できてるならもっと俺らの所にヤツらが来てもおかしくねぇ」

「なら視覚か?」

「その可能性はあるな」

「うーん、なんか引っかかるけどまぁそういう気がしますね」


前に交差点を進んだ時は警官が倒れた時の音に反応していたからおそらく聴覚もあるだろう。


ヤツらについては全然わかっていない。何かしらの情報があればいいが自衛隊の人達も来てはいない。何とかして自力で生き抜けと言うことだろうか。


「それよりさ。そろそろヤツらにも名前をつけてやろうぜ。ずっとヤツらって言うのはなんか違和感があるだろ」

「それもそうだな。まぁ適当にゾンビでいいだろう」

「ほんとに適当ですね……」

「いいじゃねぇか。柏木がさっきゾンビみたいって言ってたしよ」

「クソ金髪の提案なのが気に食わないけど、まぁしっくりくるので別にいいです」


なんか横から舌打ちの音がしたが無視をした。





















中学校から出た俺らは3人で俺の通っている高校に向かって歩いていた。途中でゾンビに襲われたりもしたがなんとか切り抜けていった。


そうして今はこの市と県庁所在地を繋ぐ橋の前に来ている。大鳴橋おおなきばし。ここの橋を抜ければ僕の通っている高校に着く。


普段なら車通りが多く、下の川も綺麗で気持ちのいい所だが、今はそこら辺にまだ新しい廃車が転がっている。川に関しては皮肉なことに前よりも綺麗に感じた。


「何回か通ったことはあるが……やはり静かだな」

「僕は毎日通ってましたけどね」


辺りにゾンビがいないことを確認してゆっくり進む。静かだ。いつもは車の音で聞こえないが、今は波の綺麗な音が耳に入ってくる。


とても美しく、儚い音。自転車で進んでいる時には気がつかなかったが風も心地が良い。優しい風が体を包んでいる。ゾンビさえいなかったらこの世界は良かったのかもしれない。


ただ気持ちよさと同時に不安も感じる。静かで心地が良すぎる。まるで嵐の前のような静けさだ。明らかにここだけ異質だ。


とゆうかゾンビがいなさすぎる。あのチェーンソーゴリラの周りにもゾンビはいたのだが。今考えてみると校内にはゾンビがいなかったのに襲撃してきた時にはゾンビが大量に発生していた。


もしかしたらゾンビとかとコミュニケーションしているのかもしれない。知能があるのかは分からないが。


もし、ここにも意思疎通ができる化け物がいたとしたら……あまり考えたくはない。頭の中の不安を振り払って前に進む。


藤木さんとクソ金髪もこの違和感に気がついたのか全く喋らずに移動している。赤、青、白、黒。様々な色の車の横を静かに通る。


まだこの状況になって数日しか経っていないが、すでにこの世界は崩壊してしまっているようだ。車はまだある程度新しいが、謎の虚無感がそれを決定づけている。まだ夏なのだが空気が冷たい。


カララと何かが地面を擦る音が聞こえた。全細胞が急停止する。音のした方に神経が集中する。息が止まりそうになる。


立ち止まってゆっくりと後ろを振り向く。脳が止まるな、後ろを振り返ってはいけないと何度も指令を出すが見ずにはいられなかった。


音のした方向に顔が向く。何も無かった。いつも通っていた時と同じように。変わらない景色がそこにあった。


「……どうかしたのか?」


藤木さんが俺が振り返ったのを見て不安そうに聞いてくる。


「……なんでもないです。勘違いでした」

「おいやめろよ、この状況でそんなことされると洒落にならねぇんだよ」

「ビビってんのか?怖くないよ、って言ってくれるのがママ以外いなくて残念だな」

「なんだてめぇ……」

「お前らいい加減にしろ。黙って歩けねぇのか」


藤木さんにキレられて黙る。さっきの音は勘違いだったのか。勘違いだと嬉しいのだが。周りに目をやる。特に変わったところはない。


しかし自然と銃を持つ手が強くなる。何か得体の知れないものに見られている感じがするのだ。前に進んでいる足がだんだんと重くなってくる。


恐怖だろうか、不安だろうか。とにかくこんな場所にはいたくなかった。さっさとこの場所から離れたかった。












ガルルッ……


聞こえた。今度は確実に聞こえた。獣のような唸り声。さっきはゆっくりと音の方向に向いたが、今度は一瞬で振り向く。


全細胞が速く、銃を構えろと言ってくる。俺が目にしたのは柱に左手のみの力で捕まり、涎を垂らしている化け物だった。


見た瞬間分かった。前に小学校を襲撃してきた時の化け物だ。鉄の仮面を被り、長い鉄の尾を鞭のように振り回し、鋼鉄の爪をカリカリと鳴らしている。


その鋼鉄の爪と尾には血がベッタリと着いており、他の所でも生存者を殺害しているのだろうと認識できた。


化け物が白い柱を蹴りあげてこちらの方に飛んでくる。視界に入って認識はできた。しかし体が追いつかない。化け物が一瞬でこちらに近づいてきた。


殺される。そう思う暇すらもなく化け物は俺の横を通り過ぎた。何が起こったのか分からなかった。


ズキリと右肩が傷んだ。右肩に目をやる。何か銀色の針のようなものが飛び出していた。どこかで見たことがある。それがあの化け物の尾だと気づくのには0.1秒もかからなかった。


針の刺さっている右肩が強烈な力で後ろに引っ張られる。刺されたところが熱い。鉄板で焼かれているようだ。


釣られている魚の気分になった。猛スピードで後ろに引き寄せられ続ける。痛みで頭がおかしくなりそうになる。突風が体全体を覆ってくる。呼吸ができない。


体感では1時間だろうか。実際には1秒ほどだろう。唐突に肩の針が抜けて放り出される。肩から出た血が辺りに飛び散る。


スピードがそのままの状態で飛び出たためか、とんでもない速度で空中を飛んでいた。体は地面ではなく、黒い軽自動車の側面部にめり込んだ。


車がおもいきり軋む音が聞こえた。猛スピードで突っ込んだためか車に貼ってあったガラスが粉々に砕けて雨のように降ってくる。


車の側面部はへこみ、元々廃車のようなものだったのが完全に廃車となってしまった。


「坊主!!」


藤木さんが叫ぶ声が聞こえる。体が痛い。特に背中。背骨が折れただろうか。体がうごいてくれない。視界もぼんやりしている。


銃はどこにいったのだろうか。手の感覚がないので分からない。自分が息をしているのかさえも分からない。心臓は動いているのだろうか。瞼が重い。脳が働かない。もう何も出来な――。













続く

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