第5話 覚醒

広い校舎が僕の目に映った。コンクリートの校舎に瓦の屋根。奥には黄色い運動場がある。普通なら懐かしい気分になっていいだろうが今はそんな状況では無い。


なんだか嫌な予感がする。しかしここまで来たのなら行くしかない。僕は門をよじ登り敷地内に入った。



体育館の扉を開けようとするが鍵がかかってて開かない。


「ここからじゃ開かないか……上から行くか」


1階からの扉は開かないので2階から行くことにした。しかし2階から行くには校舎内に入って行くしかない。


ここの校舎は一本道が多く、挟み撃ちになると逃げることが困難だ。しかしここが気になるので危険を承知で行くことにした。


玄関の扉は開いており、中はまだ昼ということもあって明るい。しかし辺りには乾いた血の跡がたくさん付着していた。その光景にゾッとしてしまう。


辺りを見てみるがヤツらはいない。というかこの校舎にはヤツらがいない。校舎の外には結構な数のヤツらがいたのだが。


何かがここにあるのだろうか。まぁおそらくさっきのチェーンソーの化け物だろうが。


さっきの化け物に会うのも嫌なので校舎の探索は後にして体育館へと向かう。階段を登り、校舎から体育館へと繋ぐ橋を渡る。時々後ろを確認しながら化け物がいないかを確認する。



体育館の扉に着いた。扉を開けようとするがやはり開かない。扉を叩いて中に人がいるかを確認する。


「あのー、誰かいませんかー?」


何も返答がない。いないということのようだ。とりあえず校舎を探索しようと思って後ろを振り向くと後ろから声が聞こえた。


「周りにヤツはいないな?」


若い男の声だった。思わずびっくりして声をあげる。


「周りにヤツはいないかと言ってるんだ」

「え?あ、うん」


思わず適当に返事をしてしまう。ヤツというのはおそらくあのチェーンソーの化け物だろう。そいつなら確かにいない。


「ならいい、入れ」


体育館の扉が開けられた。お言葉に甘えて入るとすぐに体育館の扉が閉められて鍵がかけられた。


扉の方を向くと、黒髪の筋肉質な男が立っていた。


「すぐに開けなくてすまないな。ヤツが居ては困るからね」


男は低い声で話しかけてきた。


「とりあえず下に案内するよ、生存者がいる」


男は着いてきて、といい階段を降りていった。僕も後を追って階段を降りる。階段は前通っていた時よりも汚くなっている。体育祭扉の前まで来た。


「俺だ、入るぞ」


そう言って男は体育館の扉を開けた。

そこには5人ほどの男女がそこら辺で雑魚寝したり座っていたりした。


「おい、健!なんなんだそいつは?」

「生存者だ。さっきここに来た」

「ちっ、連れてくるなよ。俺達の食料が更に減っちまうだろ」

「そんなことを言うなよ」

「でも事実でしょう?」

「そ、そうですよ、ただでさえ食料も少ないのに……」

「おデブちゃんは黙ってな。お前なんて食べなくてもその腹の中のもので耐えれるだろ?」

「な、なんだと」

「喧嘩するなお前ら」


なんか色んな人が話している。多分閉鎖的な空間だからストレスが溜まってるんだろう。


「おい、坊主」


横から座っていた、腕に龍のタトゥーが入っているスキンヘッドの男が話しかけてきた。顔に大きな切り傷が入っており、おそらくヤクザだろう。


「名は?」

「き、如月楓夜です」

「そうか、俺は藤木龍之介ふじきりゅうのすけだ。そんなにビクビクしなくていい。争いごとはしねぇよ」


思ってたより温厚な人でよかった。横に刀が置いてあるから完全に斬られるかと思った。とゆうか今の時代でもヤクザは刀を使っているのかな。


「あぁそうだった俺も名乗るのを忘れていた。俺の名前は相澤健あいざわけん。健って読んでくれ」


さっきの黒髪の男が名乗ってきた。この人も温厚そうだ。


「ほらお前らも名前くらい言ったらどうだ?」

「はいはい。私は中村優希なかむらゆうき、よろしくね」


ここの中で唯一の女性のようだ。スタイルもいい。別に興味はないが。


「ぼ、僕は波北柳瀬なみきたやなせ


ものすごいふくよかな人だ。悪くいうとデブだ。


「やぁ、僕の名前はグラミス・リオネル。アメリカから来たんだ。よろしく」


茶髪の白人の男だ。体格もアメリカ人みたいにでかい。手を出している。握手をして欲しいそうだ。お望みどおり握手する。糸部さんよりかは力を抑えてくれている。


「ほら、お前もしろ」

「……ちっ、柏木金地かしわぎきんじ


金髪の見るからに不良そうな男だ。素行が超悪そうだ。


「すまないな、もともとこういうやつなんだ。許してやってくれ」

「はい」


まぁこういうやつにはあまり関わらない方がいいか。後でどんな目にあうかわからん。とゆうかここには桃はいなかったか。命をかけてまで来たのに無駄足だったな。






来てから数時間たった。健さんは見張りに行っている。健さんは一応ここのリーダー的存在らしい。外は危険だから一時的に匿わせて貰っている。


しかし桃のことを考えてしまう。心配だ。無駄だとは思うが一応聞いてみることにした。


「あ、あの?」

「ん?どうしたんだい?」

「もともとここには人探しで来たんですが」

「人探し?どんな子よ」

「蒼木桃っていう子で小さくて、髪を後ろで纏めてる子なんですけど」

「ん~そんな子は知らないね」

「ここに来た女の子は私だけだからね」

「女の子って言える歳かよ」

「何?なんか言った?」

「なんでもねぇよ…」


全員見てないようだ。なんとなく予想はしていたが本当に無駄足だった。


「どうせそんなブス、死んでるか外のヤツらみたいになってるだろ」

「あ?」


金髪がなんか言いやがった。


「んなわけねぇだろ調子に乗るなよクソ金髪」

「あぁ?調子に乗ってるのはてめぇだろ。あとから来やがった癖に偉そうに」

「後先関係ねぇよお前を死体にして外のヤツらに食わしてやろうか?」

「やってみろよ。そしたらてめぇを死体にしてカラスに食わせてやる」

「黙れ餓鬼ども!」


龍之介さんが怒鳴った。


「うるせぇぞ。喧嘩なら外でしろ」

「すみません…」

「すまねぇ…」


クソ金髪がこちらを睨みつけてくる。こちらも睨み返す。こいつは気に食わない。本来なら殴りたいがここで殴りあっても意味がない。


「さ、探しに来たってことはすぐにここをでるつもりなのかい?」


柳瀬さんが聞いてくる。


「まぁそうですね」

「…やった」


柳瀬が小さい声で喜んだ。腹が立つが正直仕方の無いことではある。


「とっととどっかに行っちまえ」

「言わなくても出て行ってやるよ。くたばれクソ金髪」


荷物を全部持つ。こんなところに長居はしたくない。あんなクソ野郎とは話したくもないし、視界に入れたくもない。


「まて坊主」


外に出ようとした時、龍之介さんが止めてきた。


「外はアイツらがウロウロしてる上にあのチェーンソー野郎もいるんだろ?」

「はぁ、さっき来た時はいましたけど」

「なら今外に行くのは危ねぇ。俺も着いてってやる」

「え!?そんな悪いですよ!」

「うるせぇそうしねぇと俺らが見捨てたみたいになるだろうが」


龍之介さんが刀を持って立ち上がる。


「龍之介さん!こんなやつのためにそんなことしなくていいですよ!」

「そ、そうですよ、別に見捨てたっていいじゃないですか」

「そういう訳にはいかねぇんだよ。どんな状況になってもこっちはヤクザっていう肩書きがあんだよ。一般人に危害は加えねぇ。見捨てるってことはそいつを殺してるって言うのと同じだ。そんなことはしねぇ」


普通にいい人だった。人は見た目じゃないって言葉をよく聞くがその言葉が本当なんだと実感した。


「なら僕も行かせて貰うよ。日本のゴクドーというのもかっこいい」

「グラミスさん…」


さっきの外国人の人が散弾銃を持って立ち上がった。この人も同行してくれるようだ。どうやら全員が全員悪い奴では無さそうだ。


「グラミスまで…いいよ、さっさと行っちまえ」

「あぁ行かせてもらう、もともとここの食料も尽きかけてるからな」

「え!?そ、そうなの…」

「俺らに着いてくるかは自由だ。…行くぞお前ら」


そう言って体育館から出ようとした時だった。


「おい!お前らまずいぞ!ヤツらだ!ヤツらが大量に出てきた!」


健さんが大急ぎでこちらに向かってきた。


「まじかよ、この前までいなかったはずだろ?」

「知らねぇよ!とにかくまずい!チェーンソーのヤツも来やがっ…」


健さんの腹からチェーンソーが飛び出してきた。辺り一体に血しぶきが舞った。


「ががががああああああ」


飛び出したチェーンソーはどんどんと上へ移動していき頭を通り抜けて健さんの体を2つに裂けさせた。


「きゃぁぁぁぁ!!」


優希さんが叫ぶ。健さんの後ろにはさっき僕を襲った灰色の大男がいた。

アヒョヒョヒョヒョヒョ!!!

奇声を発しながら両手のチェーンソーを振り回してきた。全員急いで化け物から離れる。それと同時に体育館の扉から大量のヤツらが溢れ出てきた。


目視で見ても最低二十体以上はいる。せめて戦おうとポケットから拳銃を取り出す。弾数は10発。


どうするかを頭で考える。普通にすればすぐには弾切れになってヤツらの餌となってしまう。かといって何もしなくても死ぬ。


なら方法は1つ。逃げること。ヤツらは前の所から出てきたが出口は一つだけではない。横にもいくつかの扉がある。そこからは外に出られる。



大急ぎで横の扉の鍵を開け、外に飛び出した。幸いにも外にはヤツらがあまりいなかった。中にいる他の人達に知らせようとするが――、


「ぎゃぁぁぁぁやめてぇぇっ!」


優希さんがヤツらに襲われて生きたまま食われている。


「死ね!死ね!死ねぇ!あっ、ごめんなさい!もうしません!もうしません!もうしません!もうしませんからぁ!!」


柳瀬もヤツらに生きたまま食われている。銃で応戦していたようだが弾切れだったところを襲われてダメだった。


「またかよクソっ!」


このままだと糸部さんの時と同じになってしまう。何とかして僕と来てくれようとしていた人達だけでも助けなければ!そう思い、中に入ろうとした時――


「まて!楓夜!」


グラミスさんが僕のことをタックルで押し飛ばした。腰から落ちてしまいちょっと動けなくなる。グラミスさんの方向を見る。そこには頭のないグラミスさんが力なく座り込んでいた。


アヒョヒョヒョヒョヒョ!!!


ブィィィィィン………


チェーンソーの化け物がこちらを見て邪悪な笑みを浮かべている。これはまずい。すぐに腰をあげて走り出そうとする。


しかし何故か糸部さんと花蓮ちゃんのことを思い出す。あの鉄の尾の化け物にやられた時僕は何もできなかった。何も出来ずに死んでいくのを見るだけだった。


またそんなことをするのか。自分のために死んでくれたグラミスさんの仇を取らなくていいのか。そんな心で桃を見つけられるのか。


化け物を見る。チェーンソーを振り上げてこちらに攻撃しようとしている。死にたくはない。


でもグラミスさんはほとんど会ったばかりの僕のために死んでくれた。その恩を仇で返すことはできない。だからといってこいつから逃げるのは嫌だ。


ブィィィィィン………ブゥゥゥゥン!!


チェーンソーで切りつけてくる。動かなければ頭から真っ二つになる。それを間一髪で避けた。


化け物の目を見る。大きく深呼吸をして銃を握りしめる。もう逃げない。逃げる訳にはいかない。



「かかってこいチェーンソー野郎。お前のその自慢チェーンソーをへし折ってやるよ」











続く

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