第4話 鉄の男

この世界に逃げ場など存在しない。安息の地など存在しない。そう思ってしまった。


至る所にヤツらがいる。ヤツら以外にも謎の化け物までいる。今の僕では戦力にならない。化け物と出会った時、ちゃんと戦えるようにしないといけない。


そのためには武器が必要だ。今の僕の武器はポケットナイフと警官の弾の入っていないリボルバー。


糸部さんの銃を借りようと思ったが大事な物と言っていたのでやめておいた。つまり今持っている武器は実質ナイフ1本のみ。それだけではダメだ。僕が使っている僕にあった武器。


弓だ。アーチェリーの弓だ。あれを取りに行かなくてはならない。そう決意した僕は僕の通っていた高校へと足を進めた。


何も無い道路を歩く。ヤツらはいないので隠れて歩く必要はない。いつもは車が通っていて道路を歩くなんてできるはずが無かったのだが今はできる。なんだか変な気分だ。


弓を手に入れることが目的だがその間にヤツらに襲われたら大変だ。あまりしたくないが死んでいる警官の銃から弾を貰うことにしよう。


と、考えていた時にちょうど警官の死体を2体発見した。しかし片方は腹から下が無くなっており、内蔵がドロドロと散乱していた。もう片方は真ん中からちょうど左右に分かれており、見るに堪えない姿をしていた。


明らかに不自然だ。今までの死体は噛みちぎられた跡があったりしたが今回のは噛みちぎられたと言うよりも斬られたという方が正しい。もしかしたらさっきの化け物かもしれない。黙祷をした後に警官2人から銃弾を貰うことにした。



歩いていると僕の通っていた中学校が見えた。行くべきだろうか悩む。もし人が避難していたら、桃もそこにいるのかもしれない。


しかし、小学校は人が2人しか避難していなかった。地震の避難場所に設定されているならこんな状況は絶対避難するはずだ。


つまりそれほど生存者は少ないということ。その状況で学校にまた行くべきなのか。食料とかはあるかもしれないが、さっきのこともあって行くのが怖い。


だけど、もしかしたら桃もいるかもしれないと思うと気が気でならない。僕は学校に足を運ぶことにした。



学校のフェンスの前まで来た。ここまで来ると道に沿って行けばすぐに着く。そう思っていたがすぐには着けそうになくなった。


ヤツらがいる。しかも結構な数がいる。目視できる範囲では前に7体もいる。行く途中で2人の警官の死体から銃弾を貰ってきたので現在は銃弾が10発ある。


なのでヤツら全員を倒すことは出来なくはない。糸部さんは頭に当てたらだいたい倒せると言っていたが、アーチェリーをしていたとはいえ、拳銃で人間の形をしているヤツの頭を撃つなんてことは難しい。


仕方がないので遠回りしようと後ろを振り向く。後ろにもヤツらはいたが、一体がボケっと突っ立っているだけだった。一体だけなら隠れながら移動できる。そう思い、しゃがんで移動した。


ゆっくりと移動する。ヤツは違う方向を向いている。いける。これなら普通にいける。そう思いヤツの後ろを通過した。




その瞬間なにかの音が聞こえた。

ブィィィィィン………

聞いたことのある音だ。確か木を切る時に使うチェーンソーの音だ。


嫌な予感がした。後ろを振り返る。そこには灰色のボロボロな服を着た、大男がたっていた。


見た目が紫色なのと目があっちこっちについてるのと両手の手首から先がチェーンソーになっていること以外は普通だった。



さっきの警官を殺したのも恐らくこいつだ。この化け物はこちらをみるやいなや

アヒョヒョヒョヒョヒョ!!!

などと言いながら斬りかかってきた。


恐怖で一瞬息が止まる。しかし本能で死ぬことを察知し立ち上がって走り出した。走り出したのに気がつかれたせいで僕が後ろを通り過ぎたヤツもこちらを追いかけてきた。


チェーンソーが長く地面についているがお構い無しに走っているので、地面にチェーンソーの跡ができていた。本気で走った。


さすがにアレで斬られるとひとたまりもない。死なないように全力で走った。しかし化け物ではなくヤツに追いつかれてしまった。左肩に思い切り噛みつかれてしまう。


噛み切られはしなかったがヤツはそのままずっとものすごい力で噛み付いている。ものすごく痛い。


噛み付いたままなので重さで走るスピードも落ちてしまった。化け物が近ずいてくる。やばい。このままだと、こんなヤツと一緒に死ななくてはならなくなる。


嫌だ。死にたくない。やつがすぐそこまで迫ってくる。右手を振り上げている。なんとか肩のヤツを離そうと肘でヤツの腹を思い切り殴ってみるが微動だにしない。


そうしている間にも化け物は右手を振り下ろそうと邪悪な笑みを浮かべている。化け物の笑い声がどんどん近づいてくる。


恐怖で過呼吸になる。頭の中が死でいっぱいになる。その時チェーンソーは振り下ろされた――。















あ、死んだ。そう思った。


しかし何故か痛みが来ない。それどころか肩の痛みも抜けて体が軽くなった。


後ろを振り向く。確かにヤツはチェーンソーを振り落とした。しかしそのチェーンソーは僕に当たることはなく噛み付いていたヤツの体を切り落とした。


幸運だった。チェーンソーの射程距離内にギリギリ僕は入っていなかった。チェーンソーが地面に刺さっている。化け物はそれを引き抜こうと躍起になっている。


どうやら知能が低いらしい。その隙に猛ダッシュをした。中学校で陸上をしていた時より速かったかもしれない。


呼吸をするのを忘れて急いで校舎の敷地内に入り、草むらに入り込んだ。呼吸をする。大きく思い切り呼吸したいがやつがまだ近くにいる。


チェーンソーを抜いた直後、おそらく僕を見つけようと辺りをうろつき回っている。しかし1分ほど見回った後、奇声をあげてどこかへ走り去っていった。



ようやく安心して大きく呼吸をした。あの化け物はなんだったのか。ついさっき鉄の尾の化け物も見たというのに今度はチェーンソーとな。だがこんなところに長居はできない。さっさと学校を見回って出よう。














続く

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