その6 義弟の恋愛

 幸男と話していて気になったことがあった。俺はアンナとして幸男と握手したことはなかった。それが何故なのか少し気になった。

「幸男はアンナと握手はするか?」

「ううん、しないよ。きもがられたくないから」

「はぁ……」

幸男は自覚はないがわりとイケメン。特別モテるってわけではないが、印象がいいのは確かだ。しかし本人がオタクゆえに自覚はない。

「幸男は普通の恋愛とか興味ないの?」

「うーん。ないかも。アンナは可愛いけどあくまで推しだからなぁ」

幸男にとってアイドルに向ける感情と恋愛感情は違うらしい。

「じゃあさ、アンナにもしも付き合ってって言われたら付き合いたい?」

「……」

俺が問うと幸男は顔を赤くする。

「えっと、それは……アンナ可愛いしアンナがゲイかどうかわかんないし僕オタクとしては結構きもいほうだし、アイドルがオタクに手出すのって結構やばいことだけど……」

「幸男もういいよ、俺が悪かったって」

幸男は顔を赤くしたまま固まる。多分これは、好きだけど自信がないとかそんな感じなのかもしれない。

「幸男はきもくないから。それに幸男が応援してるのはアンナにちゃんと伝わってるからな」

「兄ちゃ~ん」

幸男はちょっと涙を浮かべる。泣くようなことなのか?

「そういうこと言ってくれるのは兄ちゃんだけだよ~」

幸男は立ち上がって俺の隣に来て、俺の両肩に触る。それはそれにびくっとした。

「わ! おい!」

俺は思わずそれを払いのけた。

「……」

「兄ちゃん?」

「あ、悪い」

すぐに我に返ると今度は俺が固まる。幸男に触られてドキッとしたのもあるが、触れられたくない理由が他にもあったんだ。

「やっぱきもかった?」

「違うから!」

また泣く幸男に俺は慌てるのだった。

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