第129話 お客様にご満足いただけるサービスの提供が困難な状況となり、半年後にサービス提供を終了させていただくことを決定になりました

 世界が混乱に包まれた。


 神々が【世界の終わり】を告げたのだ。

 世界各地の冒険者組合、そして神殿での一斉告知。

 守護遊霊用とこの世界用の二種類が同時に発令された。



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守護遊霊各位


いつもこの世界をご利用いただきまことにありがとうございます。

お客様にご満足いただけるサービスの提供が困難な状況となり、半年後にサービス提供を終了させていただくことを決定になりました

 守護遊霊世界において、守護遊霊の皆様ご満足いただける神々による役務の提供が困難な状況となり、半年後に神々の役務の提供を終了させていただくことを決定になりました。

 つきましては来月初頭をもってセイエンによる魔霊石の提供を中止させていただきます。

 今まで多くのご支援をいただいたこと、神々一同御礼申し上げます。

 今後ともご愛顧の程よろしくお願いします。



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 守護遊霊世界において、守護遊霊の皆様ご満足いただける神々による役務の提供が困難な状況となり、半年後に神々の役務の提供を終了させていただくことを決定になりました。

 つきましては来月初頭をもってセイエンによる魔霊石の提供を中止させていただきます。

 神々の干渉がなくなり次第、混沌の経路より大型強襲モンスターが多数放たれる恐れがあります。その場合は恐れながら最寄りの安全な場所へ避難をお願いします。

 神々の役務終了後は神々との交信は不可能となりますが、皆様におかれましては一部魔法等制限はございますが、従来通り生活をしていただけます。短慮な行動を取らぬようお願いいたします。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 自らの守護遊霊と連絡が取れなくなってきた冒険者も多い。守護遊霊が、冒険者から離れたことを意味する。


 大型強襲モンスターによる人類一掃などと滅亡を煽る者も現れた。


 新しい宗教を騙る者も現れた。

 免罪符を売りつけ、来たるべき【世界の終わり】に向け許しを得よと煽る聖職者も現れた。


 神々の告知は、神々との交信手段が絶たれるのみで生物が死滅するわけではないと告知されているにも関わらずだ。


 異界の門が開き、大型モンスターの大規模襲撃だけは告知されていた。

 冒険者は自らを鍛え、生き残るために、そして大切な者を守るためにさらなる技を磨いていく。


 そんな中、名も無き町の混乱は最小限だ。

 マレックと森の隠者が共同で、騒ぐ必要はなしと声明を発表したからだ。

 神殿も管理者はカミシロだ。免罪符を求める人々を一笑に付し、追い返した。


 現在、アーニーはマレックの屋敷にいた。


「免罪符の販売をしていた者は?」

「はい。名も無き町からの追放処分といたしました」


 アーニーの問いにラルフが応える。隣にはセオドアとマレックだ。

 治安強化はラルフの役目だ。


 ラルフも貴族として叙勲されている。マレックの立場を引き継ぐ役割になる。いわば町長だ。直属の上司はアーニー、そしてセオドアとなる。

 アーニーも城伯としてマレックに屋敷にいるのだ。


 アーニーはラルフに指示を出すよう言われていた。城伯としての初仕事だ。


「わかった。【世界の終わり】で予想されることは様々。物価高が最初に来る。じゃがいも、大麦、小麦、ライ麦、カブなどの郊外への作物は出荷を絞るようにしてくれ。この町だけなら賄える」

「わかりました」

「武器や防具は信頼できる者ならば売っていい。値段はふっかけてよし。鋼材在庫、ミスリル鋼の在庫ともに。できるだけ鋼材じゃなくて加工品のみで、ね。どうせ今だけの需要だ」

「承知しました。ドワーフ族に連絡しておきます」

「……その口調なんとかならないか」

「上下関係は大事ですよ。アーネスト卿」

「柄じゃないな」

「慣れますよ。口調はともかく指示は的確です」

「さすがは兄さんです」


 セオドアも満足げだ。彼が望んだ環境が整いつつあった。

 ラルフは職務に戻るべく、部屋を出た。


「かなり大げさに建国宣言したそうだな。追放処分同然のような。税を取る価値すらない開墾地という話にしたとか」


 マレックが吹いたほど、大げさにやらかしたようだ。

 本人は猿芝居ですと苦笑する。


「価値を高くみせるにはまだ早いと思いまして。気付いた時には工業で経済を牽引し、精鋭率いる軍がある公国になってますよ」

「王は歴史に悪名を残す羽目になるかもな?」

「父は引退したらこちらに引っ越すらしいですよ」

「ふ。それが一番安穏な余生を送ることができような。実を取ったか、王は」

「予想外は一つ上の兄ですね。芝居とは言え王に口答えして僕を擁護するふりをしてみせたことは評価しますよ」

「第一王子の命運が決まったか。重要な場面での発言がキーとなる。お前を助けたいという言動は本音でないとしても慈悲ある行動とみられるだろうし、お前自身そう評価する」

「そうですよ。見殺しにした者より手を差し伸べたほうを優先するとしましょう。今後とくに悪意がなければね」」


 セオドアは薄く笑った。第一王子と第二王子が継承争いになった場合、第二王子が敵対さえしなければそのまま彼の側につくという意志を固めたということだ。グフィーネ王国の王位争いは実質終了したともいえよう。

 その真実に気付いたものはほんの一握り。王と賢い王女、そしてアーニーぐらいなものだ。


「この価値に気付いたものは少数でしょう。貴族どもは工業を軽んじていますからね。製鋼は国の根幹といってもいいのに」


 セオドアの発言に、アーニーが顔をしかめた。


「工業かあ。燃料問題が、な…… 植林速度以上の伐採はこれ以上抑えたい」

「幸い名も無き町は内陸地です。海沿いで工業が盛んな国は、ははげ山だらけになるのも時間の問題らしいですね」


 建築、燃料などで木材はいくらあっても足りない。伐採の最大要因は造船だ。


「生産調整を頑張ってもらうか」


 ドワーフたちに生産能力をあげてもらっても、燃料、伐採問題に発展することは避けたいところだった。


「せっかくの魔法があるのだ。魔法の使い手を増やすことで火力を維持する手法を研究しよう」

「そいういう研究の為にアカデミーがあるわけだしな」

「魔法だけに頼るのも何なので案を一つ。陰火を採集し活用する案もある。あれは毒が弱い」

「陰火? ん、昔どっかで聞いたな」


 フレディの提案した燃料は、アーニーの頭の隅に引っかかりを覚える。


「お前なら転生前の知識になるのだろうな。ガス、という奴だ」

「地面から出る燃える気体か」

「ガスか! 確かに魔法帝国は灯火につけるのに使っていたな。ただ、取り扱いが非常に繊細だぞ。火薬の比ではない」


 魔法があるこの世界は火薬の普及を妨げている。

 とくに戦争で使う場合、魔法と違って事故率が高すぎ、実用に耐えられないと判断されやすいのだ。

 ただ、魔法が使えない者も使えるので、見直しはされ研究されている。


「そうとも。魔法と組み合わせてなんとか実用化にたり得る、といったとこか。アカデミーの研究案に採用してもらえないかね?」

「それは最優先で進めよう。製鋼に使えなくても、ガラス細工の加工には使える。ガス灯が再現できれば、町も明るくなるだろう」


 夜はろうそくなり獣脂を使い灯りを点している。

 名も無き町は他の町に比べ夜は長いほうだ。


「他の町が踊っている間に、こちらは着々と準備を進めている、か。マレックの施政が民度を育てたというところか」

「それは思いますね。王都ですら結構な醜態だそうで」

「この町はもともと亜人中心の町。取引してくれる近隣の町も少ないことが功を奏したかもしれないな」

「取引してくれないという連中もも酷い話だけどな」

「森を抜け、タトルの大森林の麓まで来ないと現状把握できないからな。もし事前に本格的な測量されていたら独立できなかったかもしれない」

「農地がこれだけあるとは思わないよな」


 すべてフロレスたちのおかげだ。拓いた森の区画を長年にかけて農地に変えたのだ。


 彼らは名も無き町を街にする気概で、発展させていくことになる。

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