第130話 古代コンクリート
ハイオーガたちが木の型から古代コンクリートを取り出した。
この材料は鉱物などの砕いた粉に、水を化学反応させて出来る。
消石灰、火山土や火山灰、軽石、水、煉瓦の粉、馬の血、藁などを混ぜて一晩寝かすだけでいい。
灰色のヘドロ状のものを塗り、乾かすだけで硬くなる。何度も塗り直す必要はあるが、丁寧な処理をしてやると数千年も建築物は保つとされている。
作業を監視しているものは、アーニーとイリーネ、そしてセオドアだ。
「これで街道の整備や、建物を一気に建築できるわけですね」
「ああ。施工に専門家は要らない。古代コンクリートを混ぜて、固めて、突き固めて施工すればいい。街道整備は後回しだな。世界の終わり次第だ」
アーニーの知識によって古代コンクリートは再現されている。
「これは予想以上に便利だね。これ単体の強さはいまいちだけど煉瓦と組み合わせてあっという間に建築できる。見栄えもいい」
魔法帝国時代の知識なのであろう。建築の大家であるイリーネも賞賛する材料だ。
大量の人手が必要で、再現が難しいというアーニーの言葉に納得した。
壁の型組には煉瓦を積み上げた後、古代コンクリートを塗布するのだ。
「問題は適度なメンテナンスが必要ということか。そこはハイオーガの長に依頼しておこう」
「はい。建築部門で活躍できることを彼らは喜んでいます」
土木系に強くなりつつあるハイオーガ族だった。
ユキナが避難民たちのために仕事を斡旋したことが大きい。
「壁に水路などにも利用できる。型を作ってオブジェも使えるな」
「用途は豊富ですね。上水道とゲス引導も完備できると」
「そういうことだ。次は地下だな」
「はい」
三人は街の近郊にあるダンジョンに向かった。
ここは打ち捨てられたダンジョン。街に近いため、漁り尽くされ、もはやゴブリン一匹住むことが叶わない迷宮だ。
迷宮としても浅く、たまに迷い込むモンスターはすぐ討伐される。
現在は厳重に封印なされている。工事のためだ。
三人は坑道を進み、採掘現場にたどり着いた。
かなりの距離を歩いた。
「こ、これを兄さん一人で?」
「俺一人じゃない。補強はドワーフとハイオーガたちがやってくれている。古代コンクリートは地震にも強いんだ」
「でも掘っている兄さんでしょ」
「まあな。採掘呪は落とし穴や井戸掘りが主な用途だが、鉱山やこういうトンネル掘りでは力を発揮するな」
三人は進んで行く。大きな部屋に入った。
「ここがひときわ大きいですね」
「ちょうど名も無き町の真下あたりか。地盤的にも問題ない。あとは地下水脈もあるから上水道、下水道も作ることができる」
「星形城塞と地下都市…… 二段構えですか」
「もともと星形城塞を運用する上で掩体壕は考えていたよ。あまりに空からの攻撃に弱いし、マレックさんの屋敷は丘の上だったしね」
「世界の終わりを迎えたあとが問題でな。いつかは不明だが混沌の経路が開かれ、大型レイドモンスターが大量に放たれることが予想されている。避難場所は必要だ」
「この計画はいつからですか? 兄さん」
「じじぃたちが消える話を聞いたときからだな。構想自体は守護遊霊がほのめかしたときから考えてた。地下都市設計はイリーネ先生にお任せだ」
「いつもその本気を出せばいいのに」
「無茶いわないでくれ、先生」
ウリカを守るため、そして皆を守るために策を講じた結果だった。
星形城塞は地を暴走する通常のモンスターには有効だろう。
しかし天空より現れるモンスターには効果はない。それは闇の飛龍討伐で実証済みだ。
「ここで暮らせそうですね」
「数ヶ月はね。でも人間が地下に住みっぱなしはできないさ」
「避難所としては豪華だ」
「保冷庫や作物の保管庫としても使えるよ!」
イリーネが胸を張る。ただの避難所にここまで大がかりなものは行えない。
「それに枯れた地下迷宮が名も無き町方面へ伸びていたことが幸いしたな。そこまで難事業じゃなかった」
「工兵術式じゃなかったら、数年かかる難事業だと思います」
「魔法帝国時代はもっと簡単に迷宮作っていたんだろうな」
「セオドア君のお城にも繋げないとね」
「はは。王都よりも尖鋭的な都市になりそうだ……」
「マスターアーキテクトの名に賭けて。生涯を賭ける価値がある大仕事だわ」
「先生がやる気をだしてくれて嬉しいよ。さて、上へ行こうか」
「何層あるんですか?」
「元ある迷宮から考えると三層ぐらいかな」
三人は階段を上っていく。
小さな部屋に出た。
「ここは……マレック様のお屋敷か!」
「もうすぐお前の屋敷だからな。案内したわけだ。マレックも地下を持ってるし、繋げやすかった」
「王様には頑張ってもらわないとね!」
「ここまでお膳立てしてもらって失敗したら厳しいな……」
「それはしらん。国作りなんてぶちまけたお前が悪い」
「死なばもろともですよ、兄さん」
「巻き込むなよ!」
「ははは。アーネスト君を操れるなんてエト君ぐらいね」
世界が恐慌に陥るなか、名も無き町は来たるべき日に備え準備を進めていた。
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