第103話 レジェンドネームー【世界】に認められた称号

 マレックの屋敷に、各種族代表が集まった。

 アーニーから勝利の報告があったとき、歓声が上がった。

 改まってアーニーが語り始めた事柄は、彼らの想定外の話だった。


「俺たちは勝利しだが、もっと驚くべき奇跡が起きた。それを報告したい」


 皆が息を飲んだ。

 一夜城以上の奇跡があるのか、と。


「俺たち、そしてこの町の人たちが作った城塞はね。祝福されていたんだ。【タトルの大森林】に」

「どういうことでしょう!」


 ティーダ-が叫んだ。

 これから語られることは、きっと彼らにとっても大きなこと――


「そのままだよ。この町を守るため、【タトルの大森林】が力を貸してくれたんだ。だから俺達はあの城塞は【タトルの城塞】と名付けた」

「大森林そのものが……我々を?」


 ハイオーガのニルチェが呟く。

 皆のざわめきが収まらない。

 ティーダ-は大興奮していた。森の意思が城塞になってまで、彼らを守る。あり得ないことだ。


「グリューン!」

「へ? 俺?」


 アーニーはグリューンを呼んだ。


「俺は何もしていないぞ」

「そうとも。ロジーネ。鑑定を」

「はい。――予想通りですよ」


 ロジーネがグリューンに笑いかけた。


「グリューンが切り出してくれた材木は全て【タトルの大森林】の祝福を受けていたんだ」

「え? え?」


 当事者のグリューンは状況が飲み込めない。


「もうあなたはただの木こりじゃないのですよ。明日にでも、職業プレートの更新を。あなたは【タトルの木こり・グリューン】になっています。この世界に刻まれた、レジェンドネームなのです」

「えー!」


 グリューンが絶叫した。彼は何もしていない。無心に木を切っていただけだ。

 タトルの木こり。タトルの名を冠する、森そのものに認められた称号。【伝説の木こり】ともいって良いだろう。


「さすが兄弟じゃ!」

「レジェンドネームかよ!」

「すげえな。兄弟!」


 残りの三兄弟も歓喜していた。


「なんで俺? アーニー殿が何かしたのでは?」


 わけがわからないグリューンがアーニーを見上げる。

 彼は兄弟のなかでももっとも不直、そして不器用で職人の道は諦めた男。そして木こりとして製材に精を出していた日々なのだ。


「俺は何もしていない。グリューンの日々の森への在り方がタトルの祝福を引き出したんだよ。森に語りかけ、常に向き合っていたグリューンがお願いしてくれたからこそ、タトルの大森林がこたえてくれた。俺はそう思う」


 皆の賞賛のまなざしがグリューンに注がれる。

 グリューンは恥ずかしくて消えてしまいたかった。


「マレックと相談もした。【タトルの城塞】はこの町の守りとして存続することにしたんだ。明日町の住人にも開放する。良ければ見にきてくれ。普段は俺たちが使うと思うが、緊急時は町の人間も使えるようにしたい」

「おお!」

「みたい! みたいぞ!」

「エルフにも声をかけねば」

「我が同胞も活躍したと聞く。ダークエルフも行くぞ」

「次の会議は、【タトルの城塞】ですな!」


 興奮する長たちに、アーニーは薄く笑いながら彼らのために追加情報を伝えることにした。


「調理場完備の宴会可能だから、そこらも含めて話し合ってくれ」

「なんとー!」


 各種族、口々に話し合う。主に宴会の日取りについてだ。


「もし何かあったとき、役に立つ。タトルの大森林の加護がいつまでもあるように。下らない城塞戦ではなく、これこそが新しい伝説になるべき話だ」

「その通りじゃ!」


 ブラオも同意する。


「確かに!」


 各種族の代表たちは興奮が収まらない。一夜にして出来た城塞は彼らを守るため、タトルの大森林が加護をくださったのだ。

 伝説の誕生に遭遇できたということを。


「ブラオ。ミスリルゴーレムについてだが、お願いがある」


 アーニーが話しているドワーフ兄弟長兄であり長のブラオと、妖精王の傍に移動した。


「ん?」

「あれはあのままにして欲しいんだ。城塞戦が終了したら溶かして返すといったが、すまない」

「そんなもん気にせんでええ。いらんいらん」

「助かる。ミスリルゴーレムは自ずと意思を持ち、妖精族を守護するようになっているみたいだ」

「ちょっと待って? 凄すぎない?!」

「ゴーレムが意志を!」


 ブラオと【妖精王】が同時に驚きの声をあげた。


「なんともいえぬ。そのようなゴーレムが?」

「ロミーを守ってくれているよ。ロミーがいうには他の妖精族も守る意思があるみたいだ。伝説に出てくる妖精の守護者のように」

「おお。みたいみたい! 私からもお願いする、ブラオ殿。どうか、ミスリルゴーレムを我らに融通していただけないだろうか!」

「よいよい。溶かすつもりはないわい! そうか。そんな伝説のゴーレムになったか。ならば本望じゃわい」


 ブラオは満足げだ。


「強くて優しいゴーレムだぞ。ロミーの指示で歴戦の冒険者を颯爽と葬り去り続け、無双していたからな」

「おお…… ロミーが羨ましいぞ!」

妖精の守り手フェアリーガーディアンになった真の銀ミスリルか。まさにお伽話フェアリーテイルじゃな」


 詩的な表現だ。ドワーフたちは詩人が多いのだ。


「それもまた新しい伝説だ」

「違いない。今日は良い酒が飲めそうだ」


 己が作った作品が伝説になる。これ以上にない名誉なことだった。


「戦乱はないほうがいい。しかし今回のような略奪者がこないとも限らない。町の人口が増えたら【タトルの城塞】を中心に開墾してもいいかもしれないな」

「それは良い考えですね!」


 ティーダ-は内心感嘆した。やはりアーニーの発想は豊かだ。

 アーニーは隣にいるグリューンに声をかけた。


「春前になったら植林に行くだろう? 俺にも植えさせてくれ」


 現在は、以前からエルフが育てていた苗場で育った幼木を植えている。

 本格稼働するには来年からだが、エルフ族は多くの幼木を育成してくれていた。


「もちろんじゃ。俺が一番混乱しているけどな! 大森林に感謝だ」

「その心がけが俺たちを助けてくれたんだ。ありがとう、グリューン」

「何をいう! 礼をいうなら大森林に言ってくれ」


 グリューンはまだ照れていた。


「そうだな。どれだけ感謝しても感謝しきれない。仲間も、町のみんなにも、森にも。精霊達にもね。みんなの勝利だ」


 心の底から、そう思っていた。


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