第101話 皆が望む勝利報酬
アーニーは、【タトルの城塞】に帰還した。
城塞戦が終結し、彼らの復活水晶も無くなっている。本当に終わったのだ。
「みんな。勝ったよ。ありがとう」
アーニーの宣言に歓声が上がる。
「この恩をみんなにどんな風に返していいか、見当もつかない」
アーニーからの偽らざる本音だった。
危険極まりなく、得る物もないような、悲惨な消耗戦に付き合ってくれた一同。
レイド報酬があったこと一の幸いだった。
「水くさいこというなよ!」
ニックが笑って手をひらひらさせる。
「本当ですよ。私たちの問題でもあったんです」
カミシロも断言する。城塞戦は彼らの信念の戦いでもあった。
「そうそう。私が設計した要塞横取りなんて、絶対許せないんだから」
イリーネも断じた。あのまま彼らを野放しにしていたら、どうなっていただろうか。そう思うと彼らで対処できて良かった。
「俺は本当に楽しかったよ」
コンラートは不謹慎ではないかと怖れを抱きながらも、感想を呟く。これほどまでに強敵との戦い、そして必要とされた火力。めったにないたいけんだった。
「俺もだ」
そのラルフが頷く。コンラートの気持ちはよくわかる。
戦争職であるはずなのに、その戦争に参加する機会がなかったのだ。
「しかし何か返したいな。レイドのドロップアイテムの分配でもいいけど、それだと味気ない」
「そういうところ、悪い癖ですよ、アーネストさん」
ロジーネがたしなめる。
「あなたは自分が施した恩は気にしないくせに、自分が受けた恩を過大評価しがちです」
「言えてる!」
「言えてますね」
「異論なし」
口々に同意の声があがる。
そういわれても、と困っているアーニーがいた。
「ありますよ。アーニー様。皆様にご恩を返し、かつ皆が欲しがっているものが」
「エルゼ?」
「もしそれを私が言い当てたら、アーニー様に甘える権利が欲しいです」
皆の顔を自信ありげに確認しつつ、エルゼが言った。
強気な攻勢にでるエルゼはかなり珍しい。
「エルゼが勝負にでた!」
ウリカが嬉しそうだ。
「お、エルゼさんの案に期待」
テテが目を輝かせながら言う。
「やっちゃって! エルゼちゃん!」
レクテナが声援を送る。
「甘える権利というものがよくわからないが…… 言ってみてくれ」
若干困惑しながら尋ねた。
「はい。それでは。皆様が望み、アーニー様にしかできない礼。――それはこの【アンサインド】の継続です」
アーニー以外の全員から歓声が沸き起こる。
「なんかもうらよりそっちが断然いい!」
ユキナが歓喜の声をあげて支持をする。
「さすがエルゼ殿」
「アーネスト君を押し倒すことを許す。やっちゃえエルゼちゃん!」
「やったー。私もそれがいい。ミスリルゴーレムも一緒にね!」
「やっぱり良い子ね、エルゼ」
同意の声が次々と上がる。
「ちょっと待ってくれ。そんなことが礼には……」
「なるのです。アーニー様。皆が望んでいるのです。せっかく結ばれた、この縁が続くことを」
「でもチームとして何ができるか」
「特別な何かなど、する必要はないのです。暇なとき、このメンバーで声をかけあって冒険したり遠征したり探索したり。困った時助け合いできる。それだけでいいのです」
続けるエルゼに、皆が賛同する。
「さすエル」
「ほんそれ」
「もう早く子作りはじめちゃいなよ」
「俺も大賛成」
「それで決まりね!」
反論は一切なかった。
「リーダーが面倒くさかったらカミシロ様に振ればいいのです」
「何その拒否できないキラーパス。いいけど」
「おっちゃん頼める?」
アーニーが恐る恐る聞く。リーダーは柄じゃない。
「いいよ! サブリーダーはエルゼちゃんね!」
「わかりました。言い出したのは私ですからね」
エルゼは拒否しなかった。微笑みながら快諾する。エルゼの微笑みもまた、珍しい。皆が思わず見惚れるほどだ。
「では今後も【アンサインド】は継続し、みんなでやっていこう。これからもよろしく!」
『よろしく!』
歓喜の声が合わさって歓声となる。
そうして勝利の宴よりも楽しい、【アンサインド】の正式発足を祝う会が始まったのだ。
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