第98話 決戦! 最強職VS【壊れ】四回行動
アーニーとロドニーは対峙する。
アーニーの背後には、燃えさかる城塞だ。逃げ場はない。
門の前にいるロドニーからは距離が離れている。双方ともロングソードを両手に構えている。
別にアーニーはロドニーに殺されて、タトルの城塞に死に戻っても構わないのだ。
だが、決着をつけたい。それは双方同じだ。
「俺は先制持ちだぞ。何せ最強職の一つ【バトルマスター】だからな。命乞いも許さん」
「そうか。俺は見ての通り軽装職だ。逃げるなら今のうちだぞ」
「ほざくな」
ウリカやポーラへの仕打ち。街の略奪宣言。力をかさに着た横暴な言動。アーニーもまたロドニーの全てが許せなかった。
ロドニーも戦意が高いアーニーを見て、一瞬不審に思ったが考え直す。バトルマスターを上回る軽装職など、相当限られている。D級冒険者では不可能だろう。
あのレンジャー風の男も決着をつけるつもりなのだ。望むところだった。
ロドニーは思考を巡らせる。
(弓なしだが奴はレンジャー……もしくはその派生。短剣による致死狙いはなさそうだが。まずは様子見)
彼はパッシブスキルで先攻行動、先手を取れる。
「【全気力充填】からの――【剣気・ソニックスラッシュ】」
彼はSR+の【バトルマスター】。本来ならグラディエイター専用スキルの剣気さえも使いこなす。二連続行動による速攻だ。並の軽装職ならこれだけで倒せる。
アーニーはその剣気を弾き返す。
「パッシブ先攻持ちか。【マジックアロー】を最大行使。行け!」
行動回数が多くても、攻撃力が高く先制行動を持つ相手には不利だ。
倒すにはどうするか。可能な手段をいくつも積み上げる。
一方のロドニーは信じられないものをみた。
総勢五十近くのマジックアローが、敵の周りを飛んでいる。
「マジかよ!」
思わず舌打ちが漏れる。
どうみてもレンジャーにしか見えない敵は、魔法戦士だったのか? 疑問は尽きない。
二回行動以上しているようにも見える。ありえなかった。
躊躇しているうちにマジックアローをアーニーが全弾発射した。
一発一発命中するたびに激痛が走る。
威力も重い。血を吐いた。魔法戦士程度の魔法威力ではない。
(痛ぇ! 軽装を来た本職だったか?)
遠距離はまずい。今の攻撃で総HPの三割は持っていかれた。
「くそ。レンジャーもどきの弓もってねえ理由は魔法かよ! 【縮地】」
一気に距離を詰める。
必中スキルで攻撃すれば、軽装職など敵ではない。
「これには耐えられまい! 【剣気・ドラゴンファング】 」
牙系と呼ばれる剣気を利用した攻撃の最高峰。これを使えるものは【バトルマスター】を含め極少数の、一部職のみだ。ドルフやニックさえも、まだ自力では取得できないほどの高難易度技である。
モンスター最高峰の竜の牙に例えられたその威力、推してしるべし。
その牙は折れず、どんな鱗もかみ砕く鋭さを持つ、個体へ与えるスキルの、最高峰の一つ——
アーニーはその攻撃を、ロングソードで受け止める。
あまりの衝撃によろめき、血を吐く。体中に裂傷が走り、血が吹き飛ぶ。
本来なら肉体が爆発四散してもおかしくない衝撃――
「まだ生きてやがるだと?」
アーニーはこたえず、不敵な笑みを返した。
アーニーもまた、相手の行動を読もうとしていた。
【先制】持ちだ。たとえ四回行動できようが、先に殺されては意味がない。
【バトルマスター】は多くの必中スキルも持っている。
パッシブでHPが増え、【竜牙剣】の保護があってもなお、ダメージレースでは遠く及ばない。
しかし、アーニーもまたロドニーへの殺意は尽きていなかった。
相手の全てを上回り、倒さねばならない。
「竜牙斬か。ならば面白いものを見せてやろう。俺の愛剣は、火竜の牙製でな」
「は?」
アーニーの行動開始――
「【ファイアエンチャント】」
アーニーの長剣が灼熱の炎を帯びる。【竜牙剣】は火炎攻撃増大だ。赤熱し、それを通り越して白熱する。白熱した刀身は禍々しい。
「【無拍子】」
【無拍子】は必中スキル。攻撃タイミングを相手に悟らせないことによって、必ず相手に攻撃を攻撃を加える。たとえ相手が回避やカウンタースキルを使っていても、無効化する。
「【渾身】」
【渾身】は、スキルや通常攻撃の威力を跳ね上げるスキル。戦士職なら馴染みのものだ。
「さ、三回行動だと!」
ロドニーは瞠目した。
個人でそんなことができる職やスキル、聞いたこともない。
「真のドラゴンファング、見せてやろう」
【竜牙剣】に秘められたスキルを発動する。
本来は選ばれし戦士系統しか使えない【剣気】の最高峰技。――火竜の牙で出来た【竜牙剣】は別だ。剣気を炎の魔力で代替が可能。
剣気の代わりに炎を糧として龍の剣に秘められたスキルを行使する――
龍牙剣はまとった炎を吸い込み紅く輝く。剣気のオーラは光り輝くが、この剣は周囲が蜃気楼のように揺らいでいる。
白熱化した刀身は金属さえも容易に溶かす。
「武器スキル解放。――【
武器スキル――武器に封じられたスキル発動によって行使可能。アーニーは解放と同時に斬撃を放つ。
「は?」
ロドニーは信じられないものをみた。【先攻】が発動しない。まだ彼の行動順は回ってこない。
「四回行動だとぅ?! ありえねえ!」
一切を焼き尽くす刀身はロドニーの鎧を紙のように切り裂きく。彼は両断された。
「ば、化け物……」
ロドニーは吐血し絶命した。
アーニーは答えない。死にゆくロドニーを冷淡に見つめていた。
その場で死体は消え失せた。復活水晶のもとに戻ったのだ。
「アーニー。終わった?」
ポーラが門をくぐって来ようとした。
「くるな。危険だ」
「? まだ?」
「くるだろうな。そこにいろ」
アーニーは燃え盛る城塞を睨みつけた。
――残心を解かない。A級冒険者相手に、アーニーは決して油断はしない。
「うおぉぉぉぉ!」
全身燃え盛りながら、ロドニーが剣を構え、特攻してくる。肌は焼けただれ、髪は燃えている。高レベルバトルマスターゆえの高HPだからこそ可能な脱出だった。
「祝別装填。【ファイアエクスプロージョン】」
【竜牙剣】に祝別されたダメージクリスタルを装填し、火球爆発を放つ。
戸口から出た瞬間のロドニーに火の玉がロドニーに命中し、大爆発を起こす。直撃で胴体に穴が開き、爆風で炎のなかに押し返され、再び絶命した。
「ポーラ!」
「はい! 【ストーンウォール】!」
正面に石の壁を設置する。
「どれぐらい持つ?」
「丸一日は持つよ。内部から攻撃を受けたらもう少し短くなると思うけど」
城塞自体は木造だが、大抵の城塞は魔法で強化されている。石壁よりも破壊することは困難だろう。
「相手も必死だからな。非常口すべてに石の壁を」
「わかった。しかし、敵ながらすごい根性ね」
「本当にな。強敵だった」
たまに石の壁の向こうから激しい音がし、やがて途絶える。
炎の城塞が燃え尽きるまで、無数の冒険者が死に続けるのだ。
アーニーは燃え盛る城塞をただ、眺めていた。
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