第97話 強職は心底羨ましいぜ?

 近くにいる冒険者たちがロドニーとドルフの救援に向かう。

 その前にイリーネとユキナが立ちはだかる。


「あんたたち。助けにいくことはいいけど、死んだらどうなると思う?」


 ユキナがさも心配というように、囁く。


「あの炎のなかを無限復活よ?」


 冒険者たちは火事をみた。絶え間ない悲鳴が聞こえてくる。

 めらめらと踊るようにうごめく影。復活した瞬間業火に焼かれる冒険者の姿。まさに地獄だった。

 我先に冒険者たちは逃げ出す。


「ふがいない」


 ユキナが嘆息した。


「無茶いわないであげて」


 けたけたとイリーネが笑う。その余裕な様をみて、逃げ出す者まで現れた。

 ミスリルゴーレムとテテは森に潜んでいる冒険者たちを掃討する。とくに魔法職はあっという間に駆逐されていった。


「ひゃっはー! です!」


 ロミーがはしゃぎながら、冒険者たちを倒していく。


「ロミーと一緒にいるあのゴーレム、絶対意思を持ち始めている……」


 テテが呆然としている。ミスリルゴーレムは明らかに進化していた。

 敵の選定が正確すぎるうえ、遂にフェイントまで使い始めている。


「僕も自分の仕事をしないとね」


 薪を拾い集めるかのように、冒険者たちを背後から仕留めていった。


「アーニー曰く範囲魔法で一掃しない理由。それは一度に大量復活して、空気がなくなって鎮火しないようにするため、か」


 ポーラが魔法を射出して、冒険者を仕留めていく。

 今ならマジックアローですら、必殺レベルの威力だ。少数を確実に葬り去るやり方は魔法使いでも安全に戦える。


「こりゃ笑えないね」


 同じローブ職として、先ほどにはなかった同情が少しだけよみがえった。

 冒険者たちは復活水晶の間に転送され、即座に死亡する。

 酸欠で。火傷で。苦痛で。


 前衛のHPがあるものは、外に向かって走り出す。それは絶望的なまでの距離だった。

 光が見える戸口にたどり着いたものはいない。


 くべられる薪のように、復活水晶では多数の冒険者が、無限の炎に焼かれ続けていった。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



 ニックは少しずつ距離を離す。

 甲冑のドルフがにじりよる。


(敵はSR+の|【バトルマスター】。二回行動に二回攻撃可能、スキルも俺といくつか共通する)


 ニックは冷静に分析した。

 二回攻撃は【バトルマスター】のパッシブだ。レアリティに関係なく取得できる。多くの者が【バトルマスター】を目指すのも、そのスキルゆえだ。狩り効率が跳ね上がるのだ。


(レアの俺にできることは、っと)


 基本の職性能差は激しい。

 今、奥の手はいくつかある。新技はまだ使えない。


「【剣気・ソニックスラッシュ】」


 ニックが仕掛けた。


「近接職の遠距離攻撃など!」


 直撃を受けても一切ひるまない。

 間合いを詰める。


「くらえ! 【スタンアタック】」


 動きを封じてくるつもりだ。攻撃を剣で受け止める。

 スタンは発生しなかった。


「何? そうか【ライオン・プライド】か!」


 ライオンプライドは状態異常攻撃の抵抗値を跳ね上げる。


 ニックは中段に構え直す。

 相手の仕掛を待つのだ。


「ならば押しつぶすまで! 【剣気・ウルフファング】」


 ニックは刹那の見切りでその攻撃の被害を最大限に減らす。


 それもドルフには余裕がある。殺し切れる、その判断だ。


「なっ!」


 ドルフの顔がゆがむ。

 ニックはのけざりながらも、笑いながらドルフを睨み付けていた。

 口に咥えているポーションが四本。ぎりぎり、回復したのだ。

 吐き捨て、再び同じ数のポーションを咥える。アーニーに教えてもらった、戦争での技だ。


 それでも体に裂傷が走るほどの衝撃だ。生きていれば勝機はある。

 死ななければ——狙い通り。

 焦りを隠せないドルフはうなりをあげながら、渾身の攻撃を繰り出した。


「そのまま死ね! 【ライトニングスラッシュ】」


 【バトルマスター】専用の攻撃。雷撃をまとわせる必殺の攻撃だ。剣気を使った攻撃ほどではないが、即座に繰り出せる、高威力技だ。


「二連続スキル! 読み通りだ――【剣気・活殺撃】」


 相手の攻撃を受け止め、その力を利用し相手に切り返す。カウンタースキルだ。タイミングがシビアで使う者は少ない。


 雷撃をまとった剣をすりあげ、返す刀で大上段に振り落とす。

 甲冑も易々と引き裂かれる。


「馬鹿な…… グラディエイター如きに……!」


 ドルフが崩れ落ちた。


「覚えていろ……」

「――勝負は本来一期一会。敗因はお前がモンスター相手の【バトルマスター】。俺はタイマン特化の【グラディエイター】だ」


 手数では勝ち目がまったくない。

 カウンター技のタイミングに全てを賭けた。


 ニックは剣を振り上げ、止めを刺す。


「俺にはない――二回行動と二回攻撃がある強職は心底羨ましいぜ? じゃあな【バトルマスター】さん」


 ドルフの姿がかき消える。

 ニックの勝利だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る