第96話 変な二つ名

 【鋼の雄牛】チームは進軍準備をしていた。

 このままではいたずらに時間が経過するだけだ。【城塞戦】を仕掛けて置いて放置したら、罰則ペナルティが発生する。


 進軍準備を城塞内で整える。

 編成は対レイドと同じ方式だ。


「人数足りなくないか?」


 ロドニーが編成時に気が付いた。


「脱走者がいるぞ」

「なんだと?」

「昨日にはいなかった。C級冒険者が三名だな」

「はん。数合わせか。闇の飛龍討伐が終わったら追い込めばいい」

「そうだな」

「今回は俺たちやA級も参戦だ。前のようにはいかない」


 屋外の広場に出て、号令を出す。その矢先の出来事だった。

 城塞が爆発した。

 復活水晶周辺があっという間に炎に包まれる。中に残っていたものがいなかった。呆然とあっという間に延焼が広がる家屋に、冒険者たちは見上げる他なかった。


「な?!」


 爆発音が連続して響いた。


「おい! 城塞の火を消せ!」

「わかりました!」


 魔法使いたちが水魔法や氷魔法を打ち込む

 氷魔法を打ち込んだ瞬間、さらに火災の勢いが増す。

 火勢に押され、砦から逃げ出した。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「なにあれ…… アーニー」

 ポーラが呆然としている。


「奴らが全軍出撃でレイドに夢中な時、ちょちょいと、な。城門開けっぱなしだ。やりたい放題だったさ」

「何かしたの一昨日だよね? 遅効すぎない?」

「可能だ」

「えげつな」

「橋を架け、道を作り――敵施設を破壊する。破壊工作が本領。これが【アサルトパイオニア】の戦い方だ」

「マレック様が畏怖していたのもわかる気がする……」


 エルゼがマレックの言葉を思い出す。戦争の裏方。しかしいるといないとでは大違いという恐ろしい職だ。


「なんで氷魔法が無効なのよ?」

「可燃性の物質を召喚してある。中心点の温度は、ミスリルの炉より高い。氷が瞬時に気化すると、あの状態では水を攻勢する物質がより燃焼する」

「もうなんなのよ、あんた……」

「これからはポーラの出番だぞ」

「わかってるよ。結果はちょっと、相手に同情するけどね」


 いたずらっぽく笑う様は、まったくそうは思っていない。


「じゃあ行こうか。全員、散開!」

「了解!」


 砦から逃げ出した冒険者が攻撃を受ける。


 ラルフの【恐怖】を受け、我先に森のなかへ消えていく。


 魔法職が樹上から狙撃され倒されていった。


「ぐは!」


 コンラートが血を吐いた。

 攻撃者はロドニー。彼が手槍を投げたのだ。


「くそ、俺が最初か……」


 地面に落ちて、姿が消えていく。


「いい度胸だ。お前ら全員叩き殺してくれる」


 ロドニーが叫んだ。


「甘い! 頭蓋を叩き割ってやるぜ!  【スカルファング】」


 ニックが奇襲した。――治癒士のキャシーを。


「【マジックシールド】。他の方のようには甘くないですよ」

「そうかよ!」


 業を弾かれたニックはにやりと笑う。、


「きゃあ!」


キャシーはその場で血の海に沈んだ。


「殺ったり!」


 頭上からの奇襲は想定しなかったのだろう。頭頂部から刺し貫かれていた。

 ドラゴンファイターパイロンとの二段構えの必殺攻撃。


「キャシー! 貴様ら!」

「死ね!」


 パイロンが巨漢のロドフの攻撃をなんとか受け止める。


「死になさい! 【ライトニングスパーク】!」

「く、ここまでか……」


 パイロンがヘスターの雷撃を喰らって倒れる。パイロンの姿も消えていった。


「次はあいつ――【ファイアエクスプロージョン】」

「【マジックシールド】」


 ポーラが躍り出た。

 ニックを守るため、魔法の盾を展開する。


「でたわね! ウィザード! 名前を名乗りなさい!」

「私かい? 私はポーラ。ただのポーラ。ポーションのポーラは聞いたことあるかもね」


 のんびりとこたえた。自分はとくに有名人では無いはずだ。


「マッドポーションのポーラ! 嘘でしょ、S級を辞退した、あのポーラがなんでいるのよ!」

「変な二つ名付けないでくれる?」


 額をひくひくとさせた。アーニーたちに聞かれたら絶対からかわれる。


「くっそ! くそ! あんたがいるなら絶対敵対しなかったのに!」

「もう遅いよね。【フレア】」


 淡々と処理するポーラ。悔しげなヘスターは一瞬に燃え尽きた。


「目的は達成した」


 ニックがロドニーに告げる。


「なんだと、てめえ」

「みてみろよ、てめーの城塞を」


 城塞の門は最大限に開かれている。

 門の前にアーニーがいた。


「火の精霊よ。踊れ。踊り続けてくれ」


 ゆらゆらと、女性の姿が炎のなかに浮かび上がる。


『汝の声に応えよう、人間よ。いつまで踊れば良い?』

「日が暮れるまで。森に火が及ばないようにお願いしたい」

『了解した』

『うぱ?』


 自宅のかまどに住む、うぱ君も顔を出す。


「お前も踊っていいぞ。頼んだ」

『うーぱー!』


 精霊との対話を追え、後ろを振り返ると憤怒そのもののロドニーがいた。


「夜までには燃え尽きるようにしておいたぞ」

「貴様だけは、絶対殺す!」

「奇遇だな。俺もそう思っていた」


 剣を引き抜いた。


「レンジャー如きが!」

「【バトルマスター】様に一矢報いるとするか」


 ロドニーに加勢するため、ドルフも前にでる。

 ニックが立ち塞がる。


「そこをどけ。雑魚」

「一騎打ちの邪魔をするなんて無粋だぜ? 脳筋」

「――さっさと殺す」


 ニックとロドニーの戦いも今始まろうとしていた。


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