第95話 早朝レイド狩り
【鋼の雄牛】チームに朝から驚愕の報告が入る。
「レイドが消えた?」
「はい。現在、
「もとの場所へ戻ったか?」
「戦闘音が聞こえたという話もあります」
「まさか二十にも満たない少数で? 無理だろ」
「私もそう思います。あれの強さは尋常ではありません」
「念のため、偵察部隊をだそう。二十名で行け」
「了解です」
偵察部隊はすぐに戻ってきた。
「ご報告します。【カイザーベヒーモス】は討伐されていました」
「討伐したという、証拠はあるのか?」
「これを」
【カイザーベヒーモス】の毛皮が一部残されていた。切り刻まれて損傷が激しい。
「綺麗に解体されていました。魔石、牙、爪、内蔵――使えるものは持ち去ったと思われます」
「くそが!」
吐き捨てた。まさか大型レイドまで横取りされるとは思わなかった。
「相手は【スーパーノヴァ】や【メテオ】まで使えるのよ。不可能とは思えないわ」
ヘスターが疲れた声を出した。
秘儀を使う敵なのだ。仲間が雑魚なはずがない。それは一方的にやられている自分たちをみても明らかだ。
「相手の前衛も特殊アタッカーばかりじゃない。マナヒーラーもいる。短期決戦なら少数レイドも余裕のメンバーだと思う」
「は。通常の狩りでは使い物にならない連中なのにな」
ロドニーが吐き捨てるようにいった。MP効率の悪い特殊アタッカーは侮蔑されることも多い。
レイドや戦争で活躍できても、一番拘束時間の長い、通常の狩り効率では極めて劣ることも多いのだ。周回性能に劣る、といわれる例にあてはまる。
「残された肉はこちらで確保する予定ですがよろしいですか? 食料も危うく。買い出しにもいけない状態です」
「……なんとかしろ!」
相手が倒したモンスターの残りかすを頂く。プライドがズタズタだ。
横取りされた気分だが、こっちは全滅で撤退済みだ。誰のものでもない。ルールに則ったやり方に対し無性に腹が立った。
「いや、待て。まずは昨日の休息だ。今日は皆休め」
何より彼自身、動きたくなかった。
もし相手が何か企んでも、徒労に終わる。
それが唯一の気休めだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「おつかれさまー!」
【タトルの城塞】は乾杯が始まった。レイド討伐記念である。
「明日早朝、最後の仕上げにかかろうと思う。今日はレイド討伐お疲れ」
「MVPは間違いなくジャンヌ殿!」
カミシロが断言する。
「おっちゃん凄かったじゃない」
延々と【カイザーベヒーモス】を回復させていったカミシロは間違いなく、MPK率トップである。
「思えばアーニー殿の守護遊霊に〔治癒士たちがMPKに向いているんだ。とくにおっちゃん〕と力説された初日――これほどまでに大戦果を残せるとは」
「思いもよりませんでしたね」
ウリカも同意する。
ウリカは敵の目標である以上、派手なMPKはできない。支援に徹している。主にカミシロのMP回復だ。
「私も自分のスキルが皆と組み合わされば、こんなとんでもないことが可能になるとは」
エルゼもカミシロについてずっと支援を行っている。
エルゼは詩人なので、このような【要塞戦】役に立たないと思い込んでいた。
それどころか忙しい。嬉しかった。
「しかも早朝レイド。ジャンヌ殿とラルフのおかげで、安定して狩れましたね」
パラディンとテラーナイト。光と闇のスキル交互使用で最強に見えた。
「ああ、ようやく役に立てたと実感できるよ、俺。生きてて良かった」
ラルフがしみじみいう。レイド報酬より、役立てた実感のほうが嬉しかった。
「必勝パターン出来たよね。またやろう、ラルフさん」
「喜んで!」
盾役としてジャンヌとラルフがヘイトを固定し、カミシロが随時回復。ウリカがMP支援。極めて安定した。
他アタッカーは随時攻撃。MP消費が激しいポーラとレクテナは、エルゼの呪曲でMP回復強化する。
余裕の討伐であった。
「しっかしポーラの火力も相変わらずすげえな」
ニックがしみじみいった。レクテナの杖があるとはいえ、もう人類を越える領域だ。
「今はフル装備だからね。それをいうなら、アーニーなんかきもい火力よ」
「俺は回数でごまかしてるからな」
「ゴーレムさんも強いんだからね!」
「あのゴーレムはキモ強いな」
ロミーとミスリルゴーレムの組み合わせも相乗効果が凄まじい。
「この子強いよね。私が狙われたとき、自動的にかばってくれるもの!」
「え? そんな機能つけてないわよ。ロミーちゃんの言うことを聞きなさいというだけよ」
レクテナが驚きの声をあげる。自律行動できるようには造っていない。
「え?」
「え?」
みんながゴーレムをみた。静かに佇んでいる。
ロミーは破顔して、ゴーレムに頬ずりした。
「ありがとー! ミスリルゴーレム。これからも守ってね!」
皆が穏やかに笑った。
アーニーは視線をずらそうとしたその時――見てしまった。
ミスリルゴーレムがわずかに首を縦に振った、その瞬間を。
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