第94話 誰にでもできるMPK上級編【強制レイド戦で全滅するまで支援しよう!】(※真似しないでください。ゲームによってはBAN対象です))

 【カイザーベヒーモス】と『鋼の雄牛』チームとの戦闘は熾烈を極めた。


 ようやく前衛が揃い、侵攻を押しとどめることに成功する。

 後衛が火力を集中し、レイド討伐の態勢が整った。

 騎士たちが【カイザーベヒーモス】のヘイトをなんとか奪い取り、ゆっくりと旋回しながら防御する。

 そこにラルフが現れた。


「【居竦み】」


 恐怖で脚が止まる。悠々と立ち去る。


「な、なんだ……」

「脚がうごかねえ!」


 カイザーベヒーモスが後ろから迫り来る。

 ヘイトを維持していた騎士たちは一気に全滅した。


「レイドのヘイトを維持してくれよぅ!」

「きやがった!」


 火力を集中させていた魔法使いの集団を虐殺が始まる。

 体勢を立て直すべく、弓職たちがヘイトを奪い取り、時間稼ぎを行う。

 ベテランの冒険者ならではの連携だ。

 幸い砦が近くだ。すぐに前衛たちは戻ってくる。

 後衛たちも戻ってきた、体勢を立て直す絶好の好機。その時――


「うぉー! 【剣気・ストームファング】」


 治癒士を切りつけ、即死させ逃げていく。

  まさに辻斬りのニックだった。


「な!」


 驚いている別のヒーラーは、空を見上げる。頭上から舞い降りる攻撃には対応できない。


ったり!」


 柔らかなローブを貫いて、絶命させる。竜戦士パイロンによる跳躍攻撃であった。


 別の場所でも戦闘が発生した。

 アーチャーの集団がようやく交代がきたと気が緩んだそのときだった。


「いっくよー! 【スタン】」


 イリーネが愛用のベクドコルバンを振り回し、アーチャーたちをスタンさせる。

 距離を取った者たちもいたが、


「予想通りこっちにきたね! 【スタン】」


 同じく待ち構えていたユキナにスタンさせらる。

 二人は森のなかに消えていく。

 アーチャーたちは【カイザーベヒーモス】に蹂躙されるだけだった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



 戦闘は一時間以上続いていた。

  レイドは長期戦が基本。いかに補給を整え、ヘイトを管理しながら体力を減らしていくかが重要になる。


 突発的に発生したレイド戦に即応できただけでも、【鋼の雄牛】たちの高い実力が現れている。

 ただし、妨害が無ければ、だ。


 奇襲に警戒していると、レイドに殺される。レイドに専念すると、回復職やローブ職から殺される。

 非常にストレスがかかる戦闘だった。


「もうすぐだ!」


 ポーラになんども魔法で一掃されていたロドニーたちだったが、攻撃も止んだところで、【カイザーベヒーモス】に合流できた。


「あれは【カイザーベヒーモス】。間違いなく大型強襲モンスターよ。瀕死になると両足をあげて、振り押したときに大ダメージと範囲スタンが発生するわ。要注意よ!」


 ヘスターがモンスターを解析し、敵の行動パターンを指示する。

 その言葉通り、【カイザーベヒーモス】は範囲スタンを使用し始めた。


「あと数分もすれば死ぬな」

「ええ」


 彼らも出し惜しみはしない。

 【鋼の雄牛】たちも大技を幾度も叩き込む。削り切り、早めに決着を付けたいところだ。

 その時場違いな声が聞こえた。


「【全回復】しますねー」


 【カイザーベヒーモス】が光り輝き、全体力が回復した。

 カミシロだった。

 隣に銀髪のエルフ少女エルゼが呪曲を奏でている。


 カミシロは脱兎のごとき早さで森に消える。

 エルゼが移動速度をあげているのだ。

 何が起きたかわからず、戦闘が続く。


 【カイザーベヒーモス】の傷が全て塞がっていることに気付いた者が、絶望の絶叫をあげた。


「レイドが! レイドがあ! 回復してるぞぉ!」


 その叫びで、レイドの体力が回復したと知ったメンバーたちは狂乱状態に陥っている。


「全回復してるぞ! こいつ!」

「さっきなんかやった奴がいた!」

「どうすんだよ! これ!」


 ラストスパート間近だった。彼らにMPはない。

 全快した【カイザーベヒーモス】は、【鋼の雄牛】の面々を睨んだ。

 一番の大技を叩き込んだ連中である。

 いくらバトルマスター二人とはいえ、耐えきれるものではなかった。


「早くヘイトを奪いやがれ! 騎士ども!」


 ロドニーの怒声が響く。強力なアタッカーである彼らがヘイトを維持していた。そ


「時間の問題だな。どれだけ保つやら」


 敵の攻撃をいなしながら、ドルフも呟く。このままではまず彼らが壊滅する。


「まだまだ余裕がありそうじゃないか」


 気が付いた時、その男は眼前にいた。


 外套を深く被っており、その影から殺意が爛々とあふれ出す――

 アーニーだった。


「き、貴様は!」

「【出血】」


 長剣を一閃させる。刃物は易々と防具を貫き、男の腹部を切り裂いた。


「ぐはっ」


 腹部を押さえるが、出血は止まらない。スリップダメージだ。

 激痛と出血で意識が遠くなる。


「【城塞】はセーフティゾーンではない。――レイドは乱入可能だ。夜が楽しみだな」


 一言だけ、言った。


「ま、まちやがれ」


 気が付いた時にはすでに姿を消した。


「もう、保たん」


 ドルフの諦めにも似たつぶやき。

 【鋼の雄牛】も全滅した。


 その後も彼らは戦い続けた。

 弓を射られ、魔法で消滅させられ、戦闘中に奇襲を受けた。

 妖精を肩に載せたミスリルゴーレムに首を刎ねられる魔法使いのパーティもあった。


 レイドは体力を回復し続けた。

 体力回復タイミングも実にいやらしく、初回は死にかけに回復させたくせに、二回目、三回目は序盤や中盤に回復にくる。

 逃げ足も速く、追いついて殺すこともできない。


 さらに敵は、【カイザーベヒーモス】に支援魔法をかけた。攻撃威力も跳ね上がり、防御力ものきなみ上がる。

 勝ち目などなかった。


「夜になる前に殺せー!」


 ロドニーの絶叫が響く。


 アーニーが言った一言が心に重くのしかかる。

 【城塞】はセーフテイゾーンではない。

 これが精神的に効いた。


 【城塞】は確かにセーフテイゾーンではないのだ。

 夜の魔物が発生するゾーンから遠く離れているだけで、追いかけて殺すことも、本来ならば可能なのだ。

 発生するゾーンを決めているものは壁だ。これは神々の加護だ。

 人里の近く、街道近くは発生しにくい。


 レイドが彼らのヘイトに反応し追いかけ城壁を破壊すれば、魔物が発生するゾーンの境界も曖昧になる。

 彼らは夜に殺され続けるのだ。


 努力もむなしく、彼らは遂に全滅した。


 不幸中の幸いであろうか。【鋼の雄牛】レイド討伐隊へのヘイトが消失し、追ってくる気配がない。

 彼らを殺し尽くした【カイザーベヒーモス】は、動く気配を見せなかった。

 著しく体力を消耗したのか、その場にうずくまる。


 夜を迎えようとし、彼らは籠城を決めた。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「なあ! もうやめようぜ! 限界だ!」

「本当に。負けでいいじゃないか。闇の飛龍討伐に向かおう」


 広間で、冒険者二人に詰め寄られるロドニー。


「やめることはできない」

「は?」

「やめたくてもやめることはできないって言ってんだよ!」


 威圧に怯まない冒険者たちに、ロドニーは苛立ちを隠せない。


「ふざけるな。詳しく説明しろ!」

「簡単な話さ。敵は勝利条件を定めていない。だから降伏も中断もできねーんだよ!」

「ちょっと待てよ。そんなザルな方式で俺たち戦わされてたのかよ」


 【城塞戦】の仕様など、冒険者が把握しているわけがなかった。

 言われるがままに戦っていたツケがきている。


「勝てばいいだろ! 勝てば!」

「勝てるかよ! みてみろよ。マジで【消失ロスト】が見えてきた奴もいるんだぞ、殺され続けてな!」


 【消失】は冒険者にとってもっとも避けたい死に方だった。

 むしろ【消失】で死んだ者など、近年いないほど希な死に方だ。


「【城塞戦】のデスペナは……」

「俺たちはモンスターに殺され続けてるんだよ!」


 重いデスペナルティが彼らに重くのしかかっている。


「それは想定外だった。次回までに改善を要求すると約束する」

「次回じゃおせーんだよ! 俺たち今死にかけてるんだよ!」

「黙れよ! 女一人手に入ったら領地付きで俺たちのもんになるんだ。あとは山分けするからよ」

「そんなことまだ言ってるのかよ? 女の姿だってろくに確認できてねーだろ!」

「黙れ。戦術的なミスは認めよう。時間をくれ!」


 皆が聞いた、初めての泣き言。

 ロドニーもまた追い詰められていることを知った。


「明日出撃するにも、昼にレイドだけだ。出た瞬間焼かれる事態は目に見えてるしな。相手の城塞の攻撃はやめにしよう。もう少し戦略を練らせてくれ」

「わかった。降伏できないなら仕方ない。無駄な出撃だけはやめてくれ。な?」

「約束しよう」

「頼んだ」


 冒険者たちが城塞内部に散った。少しでもリスクを分散するための、やむを得ない措置だ。他人の救援などを行う余裕はない。


「追い詰められたな」


 ドルフが声をかけた。


「絶対【消失】に追い込んでやる。あのレンジャー」


 暗い殺意にとらわれていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


レイドMPKはダメ絶対。

幸い作者は遭遇したことはありませんが、他鯖で問題になっていましたね。

八時間ぐらいかかる上に全滅すると、大荒れです。

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