第42話 その頃天界では――修正面倒だからバグを仕様認定

 天界会議。

 いつものメンバーが集まっている。

 魔神は鎖巻きされている。


「守護遊霊の協力を得られた。【古代召喚】を使う一人目は片付いた」

 主神が安堵したかのように言った。


「現在、天界のシステム総点検し、これ以上の【古代召喚】は行われないようにする。もうすでに手にしている奴は、対策できぬ。もう【経路】がつながってしまっとるのじゃ」

「我も仕様を確認したが…… ふざけてるのか。何故2/2が200/200になるのだ」

「現在のシステムで換算したらそれぐらいになってしまうのだよ」


 【古代召喚】は卓上遊戯のシステムだ。


 この世界に変換した場合、とんでもない数値になってしまうことが判明したのだ。


「つまり、最弱モンスターでも100/100と?」

「そう単純にはいかんがな。100が攻撃力として、そこから防御や命中にも割り振られ係数がかかって……HPはそのままに近いな……」

「ミノタウロスがHP300あたりでと考えると、3/3あたりでもう手が付けられない存在になりそうだが」

「冒険者はダメージ軽減率が高い。そのまま比較することはよくない」


 戦の神が補足する。


「インフレを抑えるべく、数値を抑えめに調整した。それが仇になった感はあるのう」


 主神は常に世界の均衡に苦心している。


「しかし、主神。協力してもらった守護遊霊と冒険者にも問題あるのでは?」


 戦の神が告げる。


「例の【壊れ】ではないですか」

「あの【壊れ】はこの世界にあいつしかおらんもん。その一人のせいで天界をひっくり返すほどの労力がいるのだ。見逃したほうが早い」

「もんじゃねえぞ、このハ……主神。例外は感心いたしませんな」

「今のシステムに落ち着いて初めて発生したような【壊れ】なんじゃ。世界を形作る言語が暗号のようになり、スパゲティのようにぐちゃぐちゃに絡み合って、何が原因でどこを直せばいいかわからん。前任の主神も行方不明で手の施しようがない。唯一、そこの魔人が関係者だが口を割らん。いっそ仕様にしてしまおう」


 主神がことなげにいった。現状放置決定である。


「なんと……」

「そもそも、あれと守護遊霊のおかげで今回も撃退できた。今後の件もあり、頼み込まれて呪文一つだけ許可したが、召喚獣ですらない、エフェクトも何も発生しない、地味な呪文のように思えたので許可した。内容はよく読んでおらんが」

「読めよ!」


 戦神が思わずツッコミをいれた。


「小さい文字でごちゃごちゃ書かれてたし、嫌がらせのように英語だったし」

「読めよ」


 魔神も言わずにはいられなかった。


「この世界の魔法は基本カタカナ英語じゃ! 儂がそう決めた! 覆らん。ネイティブなんて大嫌いだ」

「とんでもないこといいだしたぞこいつ」


 魔神が呆れた。主神への敬意は感じられない。


「その魔法は、あの【壊れ】でしか発動できないだろうし、問題なかろう」

「了解いたしました」

「そもそも、あの【壊れ】。ガチャでたまたまSSRになったから強いものの、アンコモンのままなら【使徒】に殺されておるぞ」

「まあ、はい。それは同意します」


 美の女神も認める、【壊れ】の弱さだった。


「もし同じ能力持ちが現れてもスーパーボーナスな仕様と言い張れば良い。かつて予期しない処理が仕様になった例などいくらでもある。戦闘の動作を省略し連続技に繋げるなど、その最たる例じゃ」

「確かに!」


 戦の神もアッパーからの上昇系無敵技を得意とするのだ。ちなみにお手玉のように浮かせて一気に止めを刺す連続技は美の女神が卓越している。


「それにのう。戦の。お主【古代召喚】に対抗できる冒険者何人用意できるのよ?」

「……面目ございません。おりません」

「じゃろ? あの【壊れ】は世界を滅ぼすことはないだろうが、邪神の【古代召喚】は絶対に禍根を残す。どちらを残すかは明白だ」

「御意」


 戦神が伏した。

 邪神の徒はそれだけ驚異なのだ。


「そうはいうがな。この【古代召喚】で対抗するには冒険者では辛すぎる。リソースの概念が違うのだから」

「そこよ。奴らの魔力はこの世界を侵食といっていいレベルで塵に変える。このまま放置すれば、大森林すら砂漠になる」

「我の末裔を狙っているが…… 【鮮血の姫君】を使って、奴は何をするつもりだ?」

「そこまでわからんよ。むしろシステムを作ったお前に聞きたいわい」


 魔神は考え込む。


「現世降臨」

「無理じゃ。【魔王】といえど、神を降ろせる器になりえん」

「【大魔王】なら」

「なにそれ儂しらんぞ」

「いや、あくまで理論上で我も実装はしておらんぞ。【大魔王】は」

「どんな理論じゃ。いうてみい」

「【魔王】は全ての主なき魔物を従えることができる。【大魔王】はそれに加え、全ての【魔法】を公使できる。ただ、【大魔王】の条件は実質無理だ。あの【闇の聖母】条件をクリアしないことには……」


 魔神がぶつぶつ昔考えた仕様を反芻する。


「びっくりしたわい」


 実質無理と聞いて安心する主神だった。

 美の女神が、疑問を口にした。


「魔神よ。もし【大魔王】が誕生したら、邪神は降臨できるのですか?」

「無理だ」

「それは良かった」

「ただし……分霊なら可能だろう。邪神の現し身アバター程度なら、な」


 一同が叫んだ。


「それだめなやつ!」


「さあ、魔神よ。【大魔王】の条件を聞かせてもらおうか」

「さあ吐け。今すぐ吐け」


 ほかの神々がにじり寄ってくる。


「落ち着いて。話すから。話すから!」


 魔神の悲鳴が天界に響いた。


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